若い頃は押しの強い女性が苦手でした。きっと母と妹が気が強かったので辟易していたのでしょう。
学生のとき何となくテレビ映画を観ていたら、はかない女性の物語でした。それが『いつか見た青い空』。目の見えない白人の貧しい少女と黒人のエリートサラリーマンのラブストーリーでした。
主演はエリザベート・ハートマン、相手は黒人の大スター、シドニー・ポアチエでした。ある日、二人は公園で出会います。少女は職はなく日課のお散歩でした。シドニー・ポアチエは24時間体制の会社に勤めていて、主に夜間担当なので昼間はヒマでした。国際的な大企業だったのでしょう。少女の半生はまさに悲惨で、黒人サラリーマンはいたく同情しました。エリザベート・ハートマンは本人その人がはかなげでまさに適役でした。少女は黒人男性の顔をなでて「あなたはうつくしいわ」と言います。男性は「ふつう、われわれはそうは言われないんだよ」と答えます。少女をなぐさめているうちに本当は自分が癒やされているのに気づくのでした。
その後もテレビで『白い肌の異常な夜』に出演していたのを観ました。南北戦争中の修道院が舞台で、その男子禁制の場所に傷ついた兵士が運び込まれました。見捨てるわけにはいかないので修道女たちはその男を介抱します。無事に男は回復しましたが、それからが問題でした。なんせその男はイケメンのクリント・イーストウッドなので修道女たちの間に気まずい雰囲気がかもし出され、もてあました女たちは男に毒キノコを食べさせて殺してしまいました。クリント・イーストウッドが出演した中で一番かっこ悪い映画でした。女たちの中で一番クリント・イーストウッドに惹かれていたのが、あわれなエリザベート・ハートマンでした。彼女は泣きながら最期の食事につきあったのでした。
当時、私と同時に放映を観ていたサトウタダヒロ君は、翌日、「ずいぶん貧相な女だったなあ」と感想をもらしていました。はかなげながらも存在感はありました。
その後は、映画館で『ウォーキング・トール』を観ました。不屈の保安官の奥さん役でしたが、今度はファミリーによるドンパチに巻き込まれて死んでしまいました。映画のパンフレットにはハーマンを「清楚な演技派」と解説していました。
その後、エリザベート・ハートマンは43歳で自殺しました。彼女らしい人生だったなあ、と妙に納得しました。
あれから40年、いまは強い女性が好きになりました。朝ドラの『虎に翼』は非常に良かった。今の朝ドラはちょっと勘弁、といった感じですが、BSで再々放送の『カーネーション』の主人公、糸子は『虎に翼』の寅子よりもさらにイケイケで、何回観ても元気をもらえます。初めての放送は、洋裁とかデザインとかに興味がなかったので、チラッとしか観ませんでしたが、再放送で尾野真千子さんの熱演に感動しました。セリフのない場面でも目力が強く、何を考えているのか、ヒシヒシと伝わってきます。
不思議な縁で『虎に翼』のナレーションが尾野真千子さんで、小林薫さんは寅子を法律の世界へ招いた教授役でしたが、『カーネーション』では酔っ払いのダメ親父を演じていました。時代背景もほぼ同じで、寅子も糸子も戦争で夫を亡くして新しい人生を歩むようになります。どっちにしても戦争はイヤです。