佐野理事長ブログ カーブ

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第659回 忙酔敬語 二人の和人

 鳥類学者の川上和人先生と歴史学者の本郷和人先生のことです。このお二人の書いた本は、大変分かりやすく、実証的で非常に勉強になりました。頭、良い!て感じです。

 まずは川上先生。私よりも20歳ほど歳下ですが多数の本を書いています。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』で大ブレークしました。軽薄な文章で5分毎に笑いをさそいます。この本に触発されて『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』と『そもそも島に進化あり』と続けざまに買いました。

 令和になるころから私は生態系と人間の住むべき環境について関心を深めるようになりました。そのキーワードが「ニッチ」です。ニッチとはもともとは凹みとか隙間のことで、生態用語として生息域を意味するようになり、近年、多用されるようになりました。

 このニッチという言葉を知ったのが『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』です。大型恐竜が滅びた後、恐鳥類がティラノザウルスを代表する肉食恐竜の穴を埋めます。その説明図に「ニッチを埋めた恐鳥類」と書かれていました。

 NHKスペシャルではしばしば時代をさきがけした番組を放映します。恐竜たちが活躍した白亜紀の後、新生代が始まり哺乳類の時代となり我らが霊長類の祖先も現れますが、そこに待ったをかけたのが恐鳥類です。二足歩行の鳥類ですがダチョウよりもはるかに大きく、哀れな我らがご先祖の霊長類に襲いかかりました。その後、恐鳥類が衰退した原因について明快にかかれた本は読んでいませんが、とにかく大型の肉食動物は哺乳類に取って代わりました。そして霊長類は生きのこり、その一部は人類へと進化しました。

 『そもそも島に進化あり』は軽薄ながらも学問的な本です。小笠原諸島の島々の調査をもとに書かれています。この調査についてもNHKの『東京ロストワールド』シリーズで放映されました。なかなか力の入った名番組です。川上先生も鳥類学者を代表して登場し、「呼吸をするたびにハエが体に入ってきます。でもハエは鳥の死骸を食べ、鳥は魚を食べているので魚を食べていると思うことにしています」と語っていました。『そもそも島に進化あり』では鳥止まりで魚を食べるとは書いていません。何でも100匹のハエを吸うと99匹しか出てこないので、1匹は体に残っていることになります。

 本郷和人先生は私よりも10歳ほど若い東大教授です。日本の中世の古文書を丹念に活字に残す仕事をしています。直接学生に講義することはないそうです。ユーモア漂う風貌をしているため歴史番組に引っ張りだこですが、単なる教科書的な言い伝えではなく、地道に古文書にのっとった見解を語っているので、一見、珍説でも信用できます。

 いろいろな一般書を書かれていますが、たまたまブックオフで見つけた『日本史を疑え』(文春新書)は目から鱗でした。大河ドラマ『光る君へ』を見ていて不思議に思ったのは、宮廷の財政源はどうなっているんだろう?ということでした。今みたいにキッチリ住民を把握しているわけでもなく頼りなく思っていたら、やっぱり適当だったようでした。近畿地方以外は放りっぱなしで、地方では強力な豪族(武士)が台頭していました。ただし、武士や庶民は字も書けないので、信憑性のある記録は中央の貴族の日記くらいしかありません。教科書では律令政治をしたことになっていますが、あくまでも建前で、かなりいい加減だったようです。私が長年、日本の誇りと思っていたモンゴル帝国の襲撃(元寇)を撤退させたことも、「外交オンチが招いた戦争」と切って捨てています。