佐野理事長ブログ カーブ

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第658回 忙酔敬語 生命の始まりから終わりまで

 私が所属している日本良導絡自律神経学会は、鍼灸治療に使用されるツボと電流の関係を研究しています。学術大会で講演される演題は、当然、多くは鍼灸関係ですが、今年の11月に福岡で行われる大会のテーマは『統合医療―生命の始まりから終わりまで―』です。年明けにこのことを知って私は奮いたちました。令和2年2月、日本心身症学会北海道支部の学術講演会に「ニッチをさがせ」という演題で講演する予定で、ど派手なパワーポイントを用意したのに、コロナのため講演会は抄録のみの配布で中止となり欲求不満となりました。今回のテーマでお蔵入りしたパワーポイントが使えるぞ、と思いました。早速本部へ以下の抄録を送りました。ちなみにニッチとは生態学用語で生息地と解釈できます。今回は「進化とニッチ」に変更しました。

【はじめに】生物の進化の過程から人間の生きやすい環境について考察した。

【5度の大絶滅】5億5000万年前のカンブリア紀に現在の生物の起源となる門が出そろった。それ以後、生物は5度の大絶滅に遭遇しながら進化した。滅亡しても空いたニッチには環境がととのえばすぐ新たな生物が登場した。5度目の大絶滅で大型恐竜が絶滅して空いたニッチに哺乳類が繁栄して人類が出現する素地ができた。

【ネアンデルタール人とホモ・サピエンス】人類は30種近く出現したが、30万年前にはネアンデルタール人とホモ・サピエンスの2種が残った。ネアンデルタール人はヨーロッパや中近東で生活してそれ以上ニッチを広げることはなかったが、ホモ・サピエンスはアフリカを起源にユーラシア大陸を越え、さらに南北アメリカ大陸までニッチを広げながらネアンデルタール人のニッチにも侵入した。そしてネアンデルタール人の遺伝子は一部ホモ・サピエンスに残ったが、結局は滅亡してしまった。

【ホモ・サピエンスの多様性】緯度の高い地域に生息したネアンデルタール人は金髪で皮膚が白く碧眼であった。それに対してホモ・サピエンスはアフリカにいたときは紫外線から身を守るたメラニン色素の豊富な皮膚を持っていた。しかし緯度が高い方面に進出した部族にはビタミンDを取り入れるためメラニンは妨げとなり、2000代(3万年)かけて白色の皮膚を獲得した。いったん白くなったコーカソイドもインドに南下した部族は再びメラニンを獲得したり、ホモ・サピエンスはその地域に適した体質を獲得した。

【おわりに】ホモ・サピエンスの多様性は、運動能力に秀でた集団、文化・科学が得意な集団と様々である。個人的にも得意不得意があって当然である。生活環境が本人にとって適合しなければ様々な疾患の原因となる。不調を訴えて受診する患者に対しては、患者自身が自分にふさわしいニッチにいるかどうかを確認するのが医療者のつとめである。

 生命の誕生は40億年前なので、講演はかなりはしょることになります。カンブリアの直前のエディアカラ紀の生物は、海底に沈殿した栄養物を平和に分けあっていたので、「エデンの園」をもじって「エディアカラの園」と言われました。しかし、動物の数が増加するにしたがい食うか食われるかが始まり、カンブリア爆発と呼ばれる多数の門(グループ)が出そろいました。生命の終わりはおそらく太陽が存在するかぎり何十億年は続くでしょう。人類はとっくに滅びても、いったん誕生した生命はかなりシブトイのです。