佐野理事長ブログ カーブ

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第630回 忙酔敬語 ピルなんか呑みたくない。

 低容量ピルはもともと避妊薬として登場しましたが、「生理痛をやわらげる」「生理の量を減らす」「PMS・PMDDを改善する」などといった副効用があるため、さらに広く使われるようになりました。ところが中には月にたった2、3日の苦痛のためだけに何でもない日も連続して呑むのはイヤだという女性もいます。もっともなことだと思います。

 まず生理痛について。中学生の女の子が生理痛のため治療を受けていました。鎮痛薬はロキソニンで、これといった副作用の少ない薬で個人的に好きです。6年ほど前、腰痛で苦しんだとき、自慢の鍼治療も自分には効かず、オレももうダメかな、とため息をつきながら呑んでみたら、3時間後、あれほどつらかった痛みがすっかり消えていました。そんなロキソニンがこの子には効かないというのです。ピルをすすめてみましたが、たかが2日間のために飲み続けるモチベーションがないようです。そこでズファジランという薬と一緒に呑んでもらったところ、学校を休むことはなくなり、楽しみにしていた家族旅行もできたと大いに喜び、私のファンになりました。ズファジランは子宮の収縮を抑制する作用があり切迫早産の治療にも使われます。生理痛は子宮内の血液を押し出すことから生じるのでズファジランが効くのです。ただしズファジランでも効かない場合はあります。

 つぎは月経過多。外来ナースのNさんによると女性どおしで生理が多いとか少ないとか話題にすることはないそうです。ですから貧血の女性に「生理の量は多くありませんか?」と訊いてもほとんどの患者さんが「人とくらべたことがないから分かりません」と首を傾げます。そこで「ナイト用のナプキンを使っていませんか?」という質問に切りかえたところ、「そう言えば、以前よりもよく使うようになりました」と、気づいてくれます。これで納得してピルを呑んでくれるかというと、元々ご本人は異常とは思っていなかったので、これまたモチベーションが今一つです。そこで鉄剤を2週間呑んでもらうと、「おかげさまで疲れが取れました」と喜んでくれました。患者さんにすればラクになればいいので、生理の量については慣れているので、あらためてピルを呑む気にはなれません。そこで納得するまで鉄剤を続行することにしました。

 最後は生理の前の不調について。めまい、頭痛、腹痛、だるささなど身体的な症状については月経前症候群(PMS)と言います。イライラ、落ち込みなど精神症状が主体な状態を月経前不快気分障害(PMDD)と言います。生理の前は妊娠している可能性があるので女性の活動は低下して守りの体制に入ります。学業、仕事の能率にも影響をあたえ、経済的な損失は10%にもなるそうです。これもピルが奏効しますが、何でもないときにも呑むのはイヤだし毎日続ける自信がないという患者さんもいます。昨年から発売された大塚製薬のトコエルはPMSにもPMDDにも一定の効果があります。主な成分は、大豆から作られた全身状態をととのえるエクオール、よけいな水分を排出するビタミンE2種類、イライラを押さえるカルシウムです。トコエルの説明会に参加してひらめいたのは、これは漢方薬で対応できる!ということでした。私がPMS・PMDDに一番よく使うのは苓桂朮甘湯です。めまい、だるさ、軽い頭痛、ちょっとイライラ、などといった症状が対象になります。基本的に体の余った水分を調節するのでビタミンEに相当します。したがって苓桂朮甘湯に精神安定作用のある生薬、竜骨と牡蠣(主成分はカルシウム)を加えればトコエルと同じような効果が期待できます。現在、8人の患者さんに使用しています。