佐野理事長ブログ カーブ

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第619回 忙酔敬語 スポーツと運動

 帝王切開予定の妊婦さんの術前検査をしたところ、心電図で左室肥大の疑いあり、という報告がありました。そこで念のため循環器専門病院に紹介しました。妊婦さんは中高とバスケットの選手をしており、前回、他院で帝王切開したおりも術前検査で心臓肥大を指摘され、循環器病院でスポーツ心臓と診断されたとのこと。今回もやはり異常はありませんでした。しかしながら心臓が肥大するほど頑張るとは尋常なことではありません。

 「半月板は大丈夫でしたか?」

 「大丈夫でした。でも膝の靱帯が断裂しました」

 ほうら、やっぱりね。

 プロのスポーツ選手はたいていケガ持ちです。大谷翔平しかり、照ノ富士しかり。高校生でも野球にはげんでいる子の多くは肘がやられています。昔、ジャイアンツの日本シリーズ9連覇をなしとげた川上監督が、選手時代に「丈夫に生んでくれた母親に感謝します」と言いましたが、さまにそのとおりです。丈夫でなければスポーツは危険です。

 健康のために適度なスポーツが奨励されていますが、スポーツのほとんどは競技なので、負けまいとして過度な負荷がかせられます。マイペースな運動とはどんな運動なのでしょうか?昔、ジョギングにハマッていたとき、色々な本を読みました。一番感心したのは、

健康のためだったらジョギングは5㎞ 以内か30分以内にして、あとは他のスポーツに回しなさい、という解説でした。ジョギングのハマッタさんは分かると思いますが、この5㎞ あたりからランニングハイになるのに、これでやめとけ、と言うのです。

 40代の頃は平日は5㎞、休日は9㎞ 走っていました。しかし、ある日、大先輩に「佐野、お前の顔には死相が現れている、ユトリを残しておかないとアブナイぞ」と言われ、50歳になってからは片道3.5km の徒歩の通勤を中心にしました。40代のときは急ぎ足で40分で歩いていましたが、膝や足のつけ根が痛くなり、近ごろではゆっくりと俳句を詠みながら50分以上かけて歩いています。これでも3階の医局へは階段を2段上がりに上がって息を切らすことはありません。ただし近ごろでは手すりに手をかけることにしています。とくに事故は下りに起きやすいので要注意です。地下鉄で転んだのがきっかけに亡くなった先生を2、3人知っているので人ごとではありません。運動をすれば老化による体力の衰えは自覚できます。まだまだ若い、と言いたいために鍛える人がいますが、オレもそろそろアブナイぞ、と知るのも大事です。90歳になってもこんなに元気です、といったCMがありますが、あれは特別な人たちです。

 90歳で思い出したのが、日曜日の昼にBSで放映された『クライ・マッチョ』です。91歳のクリントイーストウッド監督・主演の映画です。老カウボーイが、知りあいから頼まれて、メキシコにいる少年を、悪辣な母親から引き離して、テキサスにいる父親のもとに連れて帰るというロードムービーです。とくに目新しいところはありませんが、91歳のクリントイーストウッドが、さすがに腰がやや曲がってはいましたが、馬に乗ったり、相手を殴り倒したり、最後は熟年女性と恋に陥るなど、ありえないけど凄いなあ、と思いました。ネットの書き込みには、老いぼれた姿に幻滅したなどという辛口のコメントがありましたが、私はオレもあんな風に歳をとれたらなあ、と素直に感心しました。

 最終確認。とにかくケガをしないことです!