『荘子』に渾沌(こんとん)という帝王の死についての記載があります。
南海の帝王と北海の帝王が、中央の帝王である渾沌に大層な歓待を受けたので、これに報いようと相談した。渾沌には7つの穴(両目、両耳、両鼻孔、口)がなかったので、穴を穿つことにした。一日に一個づつ穴を穿ったところ、渾沌は七日目にして死んだ。
老荘思想の代表的な挿話で、要するによけいなことはするな、ということです。高校生のときに漢文で習って以来、妙に印象に残っていました。
歯科の定期健診で口を開けて処置をされているとき、ふとこの話を思い出しました。
「オレは今まさに穴を穿たれているんだな」
別に命の危険を感じたわけではありませんが、体中の穴は人間の弱点ではないかと思い至りました。したがって、これらの穴の管理が大切であるとあらためて考えました。
とりあえず、今、オレは口の管理をしている、これはOKだ。耳はどうか?篠路耳鼻咽喉科の武市先生は耳はデリケートな部分であるから掃除はせいぜい月に一回にしなさいと言っていたな、これもOKだ。自分は子供の時分から鼻の性が悪く、よく蓄膿になり、耳鼻科通いをしていたが、最近、鼻うがいをすることでティッシュを使う回数が減った、これもOKだ。目は漢方を一緒に勉強している元山先生から、年も年だし二フランを1日に3回くらい点眼するのは良いことだ、と言われて実行している、目についてもOKだ。
以上で渾沌の7つの穴については終了ですが、人間の下半身にはさらに男性では2つ、女性では3つの穴があります。これらの穴のなかで一番の古株は肛門です。最近、ウォシュレット附きの便器の登場で排便後の洗浄が普及しています。とても良いことだと思っていたら、佐々木みのり著『オシリを洗うのはやめなさい』という本が出版されました。お尻を洗いすぎると大切な常在菌も洗い流すことになるのでイケナイというのです。健康なヒトだと排便後はトイレットペーパーで5回ふけば充分とのこと。そんなんだったらパンツが汚れるのになあ・・・と気のすむまで洗ってトイレットペーパーを使っていたら、大腸検査のとき大腸はOKでしたが、「痔になっていますね」と言われました。
尿道はどうか。男性の尿道はペニスの存在で長いため、そう簡単には細菌は入って来ません。それに対して女性はよく膀胱炎になります。とにかく水分を摂ってオシッコを我慢しないことが大切です。オシッコの我慢を強いられるスッチーたちが膀胱炎を労災として認めろ!と気炎をはいたことがありましたが、その後どうなったのかなあ?
最後は産道。ほとんどの脊椎動物は大便、尿、卵は一箇所の穴から出てきます。恐竜も鳥の仲間で卵を産んでいたので穴は1つでした。それが哺乳類になると赤ちゃんは胎盤によって母体内で成長し、ある程度育ってから生まれるようになりました。出場所は便や尿とは別の産道(膣)です。産道は子宮→卵管→腹腔内と解剖学的なハッキリしたバリアがないため、クラミジアなどに感染すると腹膜炎を起こすことがあります。ですから女性はよくよく注意して生活する必要があります。とくにヒトパピロマウィルス(HPV)は男性でも陰茎がんや肛門がんの原因となりますが、圧倒的に子宮頸部に取り憑いて子宮頸がんの原因となります。ですから男性以上にくれぐれも穴を大切にしなければなりません。