佐野理事長ブログ カーブ

Close

第614回 忙酔敬語 動物の子育て

 若い女性がピルの処方を希望して受診しました。手に持っていたスマホの待ち受けで赤ちゃんがニコニコしていました。

 「あれっ、確かまだ赤ちゃん産んでいないよね?」

 「友だちの赤ちゃんです」

 赤ちゃん以上にニコニコと嬉しそうな笑顔を見せました。歯は矯正中。オムツを替えたりして赤ちゃんのお世話もしているとのこと。

 「いいねえ、今から練習しておくと子育て上手なお母さんになれるよ」

 人間を含めてオランウータンやチンパンジーなどの類人猿は、子育てのノウハウがインプットされていないので前もって学習しないと子育てができません。

 象は類人猿なみの知能の持ち主ですが、すでにインプットされているのではじめてのお産でもうろたえません。8月に円山動物園で象の赤ちゃんが生まれました。赤ちゃんはクッタリして息をしていません。産院だったらスタッフが集まって急いで蘇生をするところですが、お母さん象は少しもあわてず優しくゴツイ前足で赤ちゃんを刺激したり砂をかけたりしました。効を奏して赤ちゃんは間もなく息をして立ち上がりました。母子手帳には赤ちゃんの蘇生の方法が記載されていますが、象は本能のままに蘇生ができるのです。

 イヌもネコもパンダも学習しなくても子育てができます。哺乳類は母乳で赤ちゃんを育てるので一応育児をしていることになりますが鳥類になると千差万別です。

 「カーラースーなぜ鳴くのー、カラスはやーまーにー、かーわいーいー七つの子があるかーらーよー」

 札幌のカラスは5月になると巣作りの段階から気が荒くなり、巣の近くの人を威嚇して襲います。襲う相手はカラスなりにタイプがあるらしく、襲われたことがないという人もいます。私はカラスに好意的ですが、愛が通じないのかよく襲われます。一応カーッと威嚇宣言をしますが、日本軍のハワイ急襲みたいにほとんど同時なこともあり、コツンと頭を足で蹴られたこともしばしばです。蹴った後もカーッとイヤな声で威嚇します。帽子を被っていれば怪我をすることはまずありませんが、こわければ日傘をさせば万善です。

 同じ鳥でもカッコウは無責任です。托卵(たくらん)といって他の鳥の巣に卵を産み落として去って行きます。産まれたヒナもただ者ではなく、本来の住居者である他の鳥の卵を巣から押し出して、他人の親が運んできた餌を独り占めにします。同時に孵化したりしてタイミングが悪ければうまくいきませんが、進化の寄り道を見る思いがします。

 カッコウにつけ込まれた鳥は他人の子を育てることになりますが、コウテイペンギンは自分の子にしか餌をあたえません。何千というヒナの群れの中から声で自分の子を判断して餌をあたえます。ヒナの声には何千通りもあるということになりますが、そんな微妙な違いが分かるんですね。その結果、事故などで親が群れに帰って来られなければヒナは飢え死にします。コウテイペンギンの世界は無慈悲です。

 昆虫のほとんどは卵は産みっぱなしですが、オオスズメバチは組織で子育てをします。大きな群れになれば女王は安泰ですが、新米女王は巣作りから狩りや子育てをすべて自分で行います。驚いたのは雨降りで狩りができなくなったとき、巣から幼虫を一匹引きづり出して他の幼虫に与えた映像でした。苦渋の決断なんて一切なし。実にアッパレでした。