佐野理事長ブログ カーブ

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第611回 忙酔敬語 窓を開ければ

 この原稿を書き始めたのは8月21日です。今さら夏の思い出なんて季節はずれで実感が湧かないかもしれませんが、あまりにも酷暑だったので、その体験を記録に残したいと思い書くことにしました。夜間の最低気温が25℃以上あれば熱帯夜です。4年前、札幌ではめずらしく熱帯夜になりました。そのとき天気予報士さんは「お年寄りは熱中症の危険があるので窓を開けて寝てください」とやさしく注意してくれました。今年はクーラーが行きわたっていたためか、毎日のように熱帯夜が続いたのに、そのような気遣いのあるコメントはありませんでした。

 私は不眠症の気があり、窓の外の音や光がダメです。寝室のドアもキッチリと閉めて、家人に「テレビの音量を下げろ!」などとうるさくモンクをたれながら横になります。それでもちょっとした音が気になるので、スマホで音楽を聴きながら寝入っていました。

 私はクーラーがキライなので室温は自然のままです。ある夜やたらに暑いのでスマホを見ると何と28℃!4年前よりも危険な状態でした。これはヤバイ、死ぬぞ!観念して窓を開けました。外の光がイヤでカーテンを閉めましたが、14階だと風がふいてバタバタうるさいので、しかたなくカーテンは開けたままにしました。

 とにかく命が大事、安眠はあきらめました。音楽で音をまぎらせようにも、窓の下にはJRが通っていて時折ゴーッと通り過ぎ、車やバイクの音も容赦なく入って来て、さらにこんな時間にヘリコプターまで飛ぶこともあり、まったく無駄。あきらめました。実はこれが良かった。まず風の音。これまで寝顔に風を受ける経験はほとんどありませんでしたが、それが何とも心地良かった。列車のごう音も「いつもいつも通る夜汽車」的に受けとめると風情が感じられました。ついでに車やバイクの音に対する嫌悪感もうすまりました。

 とくに良かったのが虫の声でした。父は生前、今の私くらいの年齢で高音が聞こえなくなり、「キリギリスが鳴いているよ」と言っても「???」。年に1回、私は院内の健康診断の一環として聴力検査も受けていますが、高音・低音ともOKです。14階の窓の外からコロコロコロとコオロギと思われる虫の音が聞こえてきました。大合唱ではなく単体です。かなりハッキリなのが不思議でした。14階までとどく木もなくどこかの草むらでしょうが、まるで枕もとで鳴いているようでした。コロコロに耳をすましていると自然に眠りに入りました。裸同然で寝ているので、夜半を過ぎるとさすがに冷えてきてタオルケットから薄い布団に換えてまた一寝入り。

 夜明け近くになると聞きなれない鋭い野鳥の声で目を覚まします。これも悪くない。さらに一寝入りすると4時30分の目覚ましが鳴って起床となります。ただし体内時計のせいか、目覚ましの鳴る5分ほど前に自然に目を覚ますことがほとんどです。アラーム音がキライなので目を覚ましたらすぐにアラームは切ります。何だかイヤだとかキライだとかわれながら大人げない話で恐縮です。

 さて、心地良い寝入りのために、スマホの音楽から風の音・虫の音に切りかえたのですが、これって最近リラックス法として注目されているマインドフルネスとほぼ同じです。マインドフルネスの極意は、「今、感じている感覚をそのまま受けとめて、あるがままに受け入れる」ということですが、都会のど真ん中の騒音では習得できるものではありません。風の音・虫の音があるから可能なのです。