佐野理事長ブログ カーブ

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第610回 忙酔敬語 子宮頸がんワクチンの復活

 子宮頸がんの疑いのため子宮頸部の一部を切除した患者さんの退院診察をしました。患者さんは50歳で、ふとカルテをめくると12歳の長女がいることが分かりました。

 「おや、子宮頸がんワクチンが一番効く年頃ですね。もちろん受けますよね」

 「あのう、そのワクチンって痙攣(けいれん)など副反応があるんですよね」

 「ああ、あれね。実は十代の中頃の子供たちは自律神経がデリケートで、ちょっとした刺激で大きな反応を起こすことがあるんです。当時は副反応が現れた子供たちだけを対象にして調査したので、頸がんワクチンとの因果関係は結局は分からずじまいでした。その後、ワクチンを受けていない子供たちのデーターも集めて比較調査をしたら、痙攣は頸がんワクチンに限ったことではないと判明しました。どうです、安心しましたか?」

 「すいません。もう少し考えさせてもらってもいいですか?」

 「もちろんです」

 いったん不信感が生じれば、ちょっとやそっとでは納得できるものではありません。自分が大変な目にあっているのに、娘さんにはさらに安全な方法を考えるのが親心というものです。実は会話中に、思わず「まだ懲りないんですか?」と言ってしまいましたが、さいわいにもインパクトが軽かったためか、患者さんの心象を傷つけることはなかったようです。良かった良かった・・・。

 ワクチン騒動があった頃、ワクチンが本当に「がん」の予防になっているのか?というデーターが少なかったので、正直なところ私もあえて強く推奨する気にはなれませんでした。子宮頸がんは頸がんウィルスに感染してから「がん」になるまで年単位の時間がかかります。感染してから10年後に頸がんになったという報告もあります。あれから10年あまり、世界中からワクチン接種を受けなかったグループから頸がんになったという報告が続々と集まりました。ワクチンは本当に有効なのです。

 じゃあ、ワクチンを受けなかった人たちはどうすればよいのか?毎年、小まめに健診を受けてください。「がん」の発症は防げませんが初期の状態で発見できます。先ほど紹介した患者さんのように部分切除ですみます。少なくとも命の保障はできます。

 不思議なことに、最近、頸がんのワクチンを受ける若い女性が増えています。プロパガンダというよりもいうよりも、コロナのワクチンよりもマシか、という印象が広まったせいもあるような気がします。コロナのワクチンは何回受けてもなる人はなりました。そして本物のコロナよりもワクチンの方が熱が出て大変だったという人までいました。

 インフルエンザワクチンも怪しいものです。これは1年に1回なので、それこそコロナワクチンよりもマシですが、それでも私もインフルエンザに罹り、外来診療を中断して迷惑をかけたことがありました。ワクチン推進派は軽症ですむと主張していますが本当かなあ?ウヤムヤのうちに時がすぎて現在にいたっています。

 ジフテリアは21世紀に入ってからほとんど姿を消しました。そのため元国立公衆衛生院感染症室長の医師が「ジフテリアワクチンは必要ない!」と著書で主張していましたが、ワクチンはほとんど無毒でひとたび広まれば死亡率は10%と言われているので、まだお役ご免ではありません。お役ご免で有名なのが天然痘ワクチンです。これは脳炎という重い副作用があるので、WHOが撲滅宣言をする前に日本ではお役ご免となっています。