心身症の基本的な治療法として「交流分析」という心理療法があります。エリック・バーン博士が確立した治療法で、対人関係を分析し、良好な関係を築くことを目標としています。人との「触れ合い」には4つのパターンがあり、「私もあなたもOK」、「私はOKだがあなたはOKではない」、「私はOKではないがあなたはOK」、「私もあなたもOKではない」、と「OK牧場」と言われる表現で、対人関係の基本を分かりやすく解説します。さらに「生きがい」を深めるために人間はどんな生活をしがちであるか?と考察します。
バーン博士いわく「生きがい」=充実した人生で、刺激が強くなるにしたがって充足度は深まります。以下の順で刺激は強くなり、人は強い刺激を目指す傾向にあるそうです。
1.閉鎖:孤独、空想、瞑想。
2.儀式:挨拶などの習慣的な行動。
3.雑談:無難な話題をめぐる交流。
4.活動:仕事の完成を目指す。
5.ゲーム:OKではない「触れ合い」がもたらす不愉快な交流。
6.親交:信頼と愛情に裏づけされた「触れ合い」。
「交流分析」を勉強したとき、オレだったらせいぜい4の活動までで、本当は1の閉鎖で、一人でノンビリと空想するのが好きだなあ、と思ったことでした。その後、文明から隔絶した生活をしているブッシュマン、ピダハン、ムラブリといった人たちの存在を知って、「交流分析」って本当に普遍性があるのか?という疑問が生じました。
バーン博士はユダヤ系の精神科医で、その業績は世界中で受け入られ、各国で「交流分析学会」が発足されるまでになりました。博士自身は2回の離婚をしたあげく60歳で心筋梗塞で亡くなるという濃い人生を送りました。要するに4、5、6のギッシリ詰まった人生を送ったわけです。有史以来、ユダヤ系の人々はすぐれた人材を輩出してきました。現在でも世界中で、政治、経済、芸術、科学など多くの分野で活躍しています。『サピエンス全史』によると、人類は1万年前に農業を知ってから格差社会が生じて不幸になった、ということです。著者はイスラエル(ユダヤ人)のユヴェル・ノア・ハラリ博士です。「交流分析」は、ユダヤ系のようにリクツをこねる人たちには効果が期待できます。
ハラリ博士の説に反して、東大の市橋伯一教授は、農業が発見されたおかげで、専門職が生じ、協力や共感といった感情を得ることができた、と主張しています。今後、他の生物に対しての愛情も深まり、その結果、科学技術で蛋白質を含んだ食料を確保できるようになり、肉食は減って地球温暖化も解決するであろう、と明るい未来を語っています。
昔、札幌医大で郷久先生と心身症外来を行っていたとき、「交流分析」は便利で分かりやすく非常に参考となりました。ところが当院を開設してからは、あまり出番がなくなりました。例にあげると、夫婦関係がウマクいかなくなれば、こちらからアドバイスする前にさっさと離婚してしまうケースが多々あるからです。ナチュラルだなあ、と呆れるのを通りこし、感心、尊敬への念となりました。私自身も1の閉鎖、あるいは2の挨拶、せいぜい3の雑談で良いんだ、とマイペースでノンビリとした日々を送っています。