昔は、あなたが尊敬する人は誰ですか?という質問がよくありました。私の場合、21世紀になってもいっこうに戦争がなくならないので、非暴力主義でインドを独立に導いたマハトマ・ガンジーを思い浮かべたことがありました。しかし、ガンジーの人柄を知るにつれ、あまりお近づきになりたくない人であることが判明したため、チベット仏教の最高指導者であるダライラマ14世にくら替えしました。ダライラマは理系の考え方をする宗教家で、格好いいと思っていましたが、最近、高齢のためかワキが甘くなり、年端もいかない少年にキスを強要したとユーチューブに流され、ちょっとガッカリしました。
サヘル・ローズさんはイランで戦争被害にあい孤児院で幼少期を過ごしました。縁あって来日しましたが、中学生の時に酷いイジメのため自殺寸前まで追い込まれました。その後、人間関係にもめぐまれて、本来の明朗闊達な自分をとりもどしました。当時、サヘルさんのお世話をしたご婦人は、「ほとんど口を開かなかったのに、こんどは喋るは喋るはで、サヘル・ローズがシャベル・ローズになったんですよ」と笑っていました。
テレビに登場した頃は、ちゃらいタレントというイメージでしたが、それまでの大変な人生を知って尊敬する人物となりました。生い立ちやイジメの体験からは、ふつうだったら荒んだ人生を送ることになるのに分からないもんだなあ、と思いました。天性の明るさなんでしょうか、つらい人生を歩んでいる人の励ましになる存在と注目しています。そして、最近では、「ワタシもうダメ」とへばっている患者さんに、「打たれ強い人っているもんだよ」とサヘルさんのことを紹介しています。決定的に感服したのは、ちょうど1年前のことでした。
日曜日の夕方にBSプレミアムで『釣りびと万歳』という番組があります。俳優さんやタレントさんなどがゲストとなり、釣り兄貴と称する漁師さんの指導のもとで釣りに挑戦します。今回の目標は?と訊ねると、皆、1㎏越えとか50㎝越えとか、分不相応な大物を目標をかかげます。サヘルさんは東京湾でカサゴ釣りに挑戦しました。目標は?と言われて、サヘルさんは「家族で食べるとしたら何匹くらい必要ですか?」と聞き返しました。5匹との返事で、「じゃあ、5匹を目標にします」と宣言し、そして、ちょうど5匹のカサゴを釣り上げました。後にも先にも自分たちの食べる分を目標にしたのはサヘルさんだけです。その喜ぶ姿を見て、こちらもほのぼのと幸せな気分になりました。
尊敬する人物にはハヤリスタレがあり、私が小中学生の頃はもっぱらシュヴァイツァー博士でした。博士はもともと宗教家・オルガン奏者でしたが、貧しい人々を救うために医師となりアフリカで慈善事業をして、1952年にノーベル平和賞を受賞しました。私の高校の同期で博士を尊敬して医師になったヤツもいましたが、私は博士が上から目線なので今一つ馴染めませんでした。
今の若者、とくに高校生では、家族や友人、アイドルなど比較的身近な人物が尊敬する対象となっています。あまり本を読まないこともありそうです。歴史上の人物としては坂本龍馬がトップ入りをしていますが、司馬遼太郎さんの小説の影響かと思われます。
昔、アメリカのケネディ大統領が、日本人の政治家では上杉鷹山を尊敬すると言いました。当時、多くの日本人は鷹山を知らなかったので、コアなコメントにビックリしました。娘さんのキャロライン・ケネディ駐日大使も在日中、鷹山のお墓参りをしました。