「どこか優しい先生のいる心療内科を紹介していただけませんでしょうか?」
更年期を過ぎた患者さんが疲れきった顔をして言いました。
「私は心療内科もやっていますよ。事情が込み入っていれば、心理師もいるのでゆっくりとお話しをうかがえますが・・・・」
「実は長男のことなんです。主人の先妻の子で、最近、調子が悪いということで同居するようになりました。仕事は休職していて、ただブラブラしているだけ。どうあつかってよいのか分からないので眠れなくなり、しばらく飲んでなかった睡眠薬が必要になってしまいました」
ここで思い出したのが讀賣新聞「人生案内」です。弁護士、作家、哲学者、精神科医、心療内科医、大学教授、大学学長(発達心理学)、スポーツ解説者などそうそうたるラインナップで様々な相談に応じています。
たしかにこの患者さんが言うように相談員は心療内科医になるだろうな、と思いました。さすがに「讀賣新聞に相談してみては」とは言えず(ちょっとだけ言及しましたが)、まず私が対応してみました。
「お話しの中で気になったのが、息子さんの実のお父さんであるご主人が登場していないことです。ご主人はどういったお考えで息子さんを家にむかえ入れたのでしょう。直接ご子息とかかわるのは確かに難しいと思います。ここでご主人にご自分の思いをうち明けて、あとはご主人にまかせて息子さんとは距離をとって暮らしてみてはいかがでしょうか」
この回答のパターンは「人生案内」を読んで身につけたワザです。はたして患者さんの顔色は明るくなりました。
「どうです、こんな回答でよかったですか?」
「はい、ありがとうございます」
患者さんは満足したように帰られました。
ここで気になったのが、いつのまにか自分が心療内科医であると言ってしまったことです。私は心身医療「産婦人科」専門医で心身医学会に所属していますが、心療内科学会には所属していません。心療内科という診療科は九州大学医学部で創設されましたが、内科や外科のように全国の医学部すべてにあるわけではありません、というか少数派です。また九大で設立当時は国からは正式な診療科としては認めていませんでしたが、初代教授の池見先生の努力で、心療内科は診療科として認定され、診療報酬もわずかながら受けられるようになりました。しかし、認められたのは心療「内科」だけで、われわれの行っている心療産婦人科などは「心療内科」に含まれてしまいました。実は「心療内科」は呼吸器や消化器などの身体疾患をあつかう「内科」で、さきほど紹介した患者さんのようにメンタルを主とした患者さんは対象としていません。私はもともと精神科を志したことがあり、軽症のメンタル疾患も診ていますが、心療内科学会にはこのような因縁があるので所属していません。心療内科学会が設立されたとき、心身医学学会の所属メンバーは内科医が多かったため、ほとんどがそのまま心療内科学会員となりました。郷久理事長は学会誌『心身医学』の編集などで活動していたため、なりゆき上、心療内科学会員となりましたが、私はあくまでも心身医療「産婦人科」専門医です。われながら意固地ですなあ。