佐野理事長ブログ カーブ

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 第585回 忙酔敬語 子守唄

 産後うつの患者さんのことでスタッフ一同気をもんでいました。ご家族も心配されていましたが何とかなりそうです。私はふと『五木の子守歌』を思い出し口ずさみました。

 「おーどんがうっちんちゅうてだーいがにゃーてくーりゃーかー・・・。おい、このお姐ちゃんよりもマシだぞ」

 「?」、「?」、「?」・・・、「?、『赤とんぼ』なら知ってるけど・・・」

 だれもこの子守唄を知らないようでした。以下、三浦一雄氏の伝承による歌詞です。

 

  ねんねしなされ 早起(はやお)けなされ

 朝は六時にゃ(お寺の)鐘(かね)が鳴る

 おどま盆(ぼん)ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと

 盆が早よくりゃ 早よもどる

 おどがくゎんじんくゎんじん ぐゎんがら打(う)てさるく

 ちょかでままたゃて ろにとまる

 おどんが打死(うちん)ちゅうて 誰(だい)が泣(に)ゃてくりゃか

 裏の松やみゃ せみが鳴く

 せみじゃござらぬ 妹でござる

 妹泣くなよ 気にかかる

 花は何の花 つんつん椿

 水は天から もらい水

 おどんが打死んだら おかん端(ばちゃ)いけろ

 人の通る数 花もらう

 歌詞は昔の熊本弁なので、ほとんど意味不明ですが、「自分が死んでも誰が泣いてくれようか」の部分が哀れで、心にしみ込んでいました。こんな子守に背負わされた赤ん坊もさぞ気がめいるだろうなあ、と思ったことでした。

 『五木の子守唄』は今では熊本を代表する民謡とされています。歌詞は伝承者によって様々で、私のお気に入りの「おどんが打死ちゅうて誰が泣ゃてくりゃか」がないバージョンもあります。ご存じ『赤とんぼ』は、大正末期に作詞され昭和初期に曲がつけられた童謡で、厳密には子守唄ではありません。『五木の子守唄』が子守の立場なのにたいして『赤とんぼ』は子守に背負われた幼子の目線です。いずれにしても昔は十代そこそこの女の子が、姐やとしてほとんどただ働きで子守をさせられました。実家からすれば口減らしです。『五木の子守唄』になるか『赤とんぼ』になるかはその子の運しだいでした。