産後うつの患者さんのことでスタッフ一同気をもんでいました。ご家族も心配されていましたが何とかなりそうです。私はふと『五木の子守歌』を思い出し口ずさみました。
「おーどんがうっちんちゅうてだーいがにゃーてくーりゃーかー・・・。おい、このお姐ちゃんよりもマシだぞ」
「?」、「?」、「?」・・・、「?、『赤とんぼ』なら知ってるけど・・・」
だれもこの子守唄を知らないようでした。以下、三浦一雄氏の伝承による歌詞です。
ねんねしなされ 早起(はやお)けなされ
朝は六時にゃ(お寺の)鐘(かね)が鳴る
おどま盆(ぼん)ぎり盆ぎり 盆から先ゃおらんと
盆が早よくりゃ 早よもどる
おどがくゎんじんくゎんじん ぐゎんがら打(う)てさるく
ちょかでままたゃて ろにとまる
おどんが打死(うちん)ちゅうて 誰(だい)が泣(に)ゃてくりゃか
裏の松やみゃ せみが鳴く
せみじゃござらぬ 妹でござる
妹泣くなよ 気にかかる
花は何の花 つんつん椿
水は天から もらい水
おどんが打死んだら おかん端(ばちゃ)いけろ
人の通る数 花もらう
歌詞は昔の熊本弁なので、ほとんど意味不明ですが、「自分が死んでも誰が泣いてくれようか」の部分が哀れで、心にしみ込んでいました。こんな子守に背負わされた赤ん坊もさぞ気がめいるだろうなあ、と思ったことでした。
『五木の子守唄』は今では熊本を代表する民謡とされています。歌詞は伝承者によって様々で、私のお気に入りの「おどんが打死ちゅうて誰が泣ゃてくりゃか」がないバージョンもあります。ご存じ『赤とんぼ』は、大正末期に作詞され昭和初期に曲がつけられた童謡で、厳密には子守唄ではありません。『五木の子守唄』が子守の立場なのにたいして『赤とんぼ』は子守に背負われた幼子の目線です。いずれにしても昔は十代そこそこの女の子が、姐やとしてほとんどただ働きで子守をさせられました。実家からすれば口減らしです。『五木の子守唄』になるか『赤とんぼ』になるかはその子の運しだいでした。