佐野理事長ブログ カーブ

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第582回 忙酔敬語 メンドクサイ

 やっと暖かくなり、雪かきする人は見かけなくなりました。父は山深い山梨県の谷間の出身で、集合住宅に住むという選択肢はなく、庭付きの一軒家のため、私は雪かきに明け暮れました。父は畑いじりが好きで、様々な花や野菜を育て、私の幼少の時分は無理やり草取りをさせられました。草取りは地上に生えている草だけではなく、根っこから引っこ抜かなければ父の拳骨がとんできました。子供は叩いて育てる時代でした。

 当院に来て最終的な住居を定めるにあたって、絶対に一戸建てには住まないぞ、と今のマンションに決めました。駐車場は地下にあり、おかげさまで雪かきとは無縁の生活を送っています。職場までの行き帰りに雪かきにはげんでいる人たちを見ると気の毒になります。雪かきでかなりのエネルギーを消耗しているはずです。

 それに対して郷久理事長は断固たる一戸建て主義者で、もう80歳をとっくに過ぎているのに「いい運動になる」と嬉々として雪かきにはげんでいます。

 むかし、当院でも緩和ケアをしようじゃないかという話になったとき、私は「仏教でいうところの浄土は西の方にあるので、病室は西側の部屋にしましょう」といい加減な提案をしました。しかし、郷久先生は「庭つきの一戸建てじゃなきゃダメだよ」と、とうてい実現不可能なことを言われたので、話はたち切れとなり現在に至っています。

 土いじりに関しては、家内が農業の魅力にハマってしまい、3年ほど前から新川に市民農園を借りて野菜作りをしています。家内の指図にしたがって、自分では何も考えずに農奴になりきって作業をしています。しかし、新川は広々して地平線が見え、さらにヒバリが鳴いているのを間近に観察できて、これも悪くないなと思うようになりました。

 以上、何が言いたいのかというと、自分がめんどくさがり屋だということです。

 テレビ番組で取材班が、南米アマゾンの奥地に幻の「虹の川」を求めて、ボートで3時間もの本流をさかのぼり、さらにジャングルを歩くこと7時間、やっと「たどり着いた!」と喜び合っている姿を見て、実にバカバカしいと思いました。

 また、雪山の登山で遭難したニュースを見て、気の毒ではありますが、何もこんな時期に危険をおかしてまで行くこともないのに、と呆れてしまいました。雪山ならではの喜びがあるのでしょうが代償が大きすぎました。

 ホモサピエンスの特徴として、好奇心、探求心があります。そのおかげで人類は世界中に広まり繁栄しました。しかし、すべての人が広がりたいと思っているわけではありません。リーダー格がいて、そいつが別天地をもとめて仲間を引きつれて旅をしたのです。

 郷久理事長は開拓者タイプです。当院を開設したのをはじめ、様々な企画をしてきました。かたや私は出不精で、コロナ禍での引きこもりの生活を堪能しました。ただし、やり出したら長続きする方で、郷久先生が企画した事柄について、本人が手を引いた後でも、週2回の「ワンポイントレッスン」など平成11年から現在まで延々と1500回以上も行っています。まっ、オレって定住型なんだな。

 ここで思い出したのがネアンデルタール人。筋骨隆々で脳が大きいので運動神経にもすぐれ、ホモサピエンスと1対1で戦ったら簡単に勝てたはずです。しかし私みたいに出不精で、ヨーロッパと中東近辺でウロウロしているうちに、ホモサピエンスに狩り場を奪われて絶滅しました。こうなると「メンドクサイ」も命がけです。