佐野理事長ブログ カーブ

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第568回 忙酔敬語 感性がするどくなった?

 泉州統合クリニックの中田英之院長は東洋医学の達人で、漢方や鍼治療など何でもこなしますが、最近は漢方を処方することは少なくなったそうです。「養生」を主体とした診療をしているため、生活改善のアドバイスだけで、ほとんどの患者さんが良くなるからです。具体的に奨励しているのが足湯です。調子が悪いときだけではなく、日ごろから生活に取り入れるように指導しています。クリニックは大阪府にあるので、ズバリ「もうかりまっか?」と聞いたらところ、キッパリと「もうかります!」との返事。

 精神科も標榜しているため、指導料の算定がそれ相応に請求できるとのことです。患者さんを薬漬けにしないで、しかも正当な報酬を得られるのですから言うことなしです。

 中田先生は常々患者さんに甘い物を食べるな、とくに果物はダメ、このアドバイスを受けない患者さんには漢方は処方しない、と言っていました。講演会後の慰労会でデザートのチョコレートケーキをペロリと食べたので、「それはどうゆうこと?」と詰問したら「たまにはいいんです」とすました顔でした。

 甘い物禁忌の科学的根拠を中田先生に確認することなく現在に至っていますが、私もこのやり方を取り入れています。はたして冷え症や下腹部痛を訴える女性では甘い物に耽溺している傾向がみられます。とくに若い女性ではこの寒さのなか、「毎日、アイスを食べてます」と平気な顔をしている人も少なくありません。

 昔、民放で『にほん昔ばなし』というレベルの高いアニメが放映されていました。そのなかで「干し柿と塩びき」というお話しがありました。秋の終わり、男2人が買い出しに行って、1人が塩びき、もう1人が干し柿を買いました。帰りの峠で吹雪に見舞われ、塩びきを食べた男は体が温まり元気に峠越えができたのに、干し柿を食べた男は冷えてヤバクなったという話です。昔の鮭の塩びきは、現在スーパーで売られている塩鮭に、保存のためさらにさらに塩をまぶしカチンカチンになった代物で、「こんなショッパイもん、ご飯なしで食べられるはずがない!」と文句をたれたくなりましたが、とにかく体を温めるらしい。そして柿が体を冷やすというのは、昔から知られていることが分かりました。

 20代の女性が下腹部痛を訴えるので、骨盤内の血行が悪いと判断して桂枝茯苓丸という、こういったケースでは第一選択の処方をしました。2週間後に受診した患者さんは、「おかげさまでラクになりました。しかし、不思議なことに甘い物がやたらに食べたくなりました」とにこやかに言いました。私は初診時に「甘い物を食べるな」と言うことは忘れていました。しかし、本人は体調不良のため、自然に甘い物を受けつけなくなったようです。ずいぶん感性のするどい人だなあ、と感心しました。

 私は感性が鈍いので懲りるまでは気づきません。お歳暮のクッキーやチョコレートをつい食べ過ぎてしまいます。そして必ず、だるさ、お腹のグルグルなどが出現して、オレはバカだなあ、と反省しきりでした。さらに今ではコーヒーに砂糖を入れたり、ジャムと一緒に紅茶を飲んだだけで具合の悪さを実感するようになりました。感性がするどくなったのではなく、単に老化による体力の衰えから来るものだと考えられます。

 孔子は「七十にして己の欲することをしてその矩(のり)を踰(こ)えず」と言いましたが、逆に考えると六十過ぎまでは矩を踰えていたようです。さすが超人は違う!とおおいに感心したことでした。