院長ブログ カーブ

Close

第567回 忙酔敬語 低用量ピルが飲めない

 低用量ピルは避妊のために使われてきましたが、月経量や月経痛を改善するので保険適応になっている製剤もあります。近年、女性の悩みは生理痛よりも生理前の心身の体調の悪さ、いわゆる月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)の方が頻度が高いと認識されるようになりました。ピルはこんな女性にとっても救いの主みたいな存在です。

 アムールの国フランスの女性は、ピルは20世紀最大の発明だと絶賛していますが、ホルモン剤について及び腰の日本では平成12年になってやっと処方できるようになりました。私とPMDDに悩んでいた患者さんにとっては画期的な出来事でした。

 日本では月経前症候群については、平成に入っても婦人科医にとって興味ある対照ではありませんでした。外国文献ではやたらに研究報告があるので、欧米人の女性って何と情けないのだろう、と思っていたところ、女性医師が増えるにつけ日本でも注目されるようになりました。私が水分をさばく4種類の漢方薬(苓桂朮甘湯、当帰芍薬散、五苓散、半夏白朮天麻湯)で8割近くが改善すると発表したところ、市内の心療内科の病院から大勢の患者さんが紹介されました。ほとんどの患者さんが何とかなり、とくに苓桂朮甘湯が使いやすかったため、その病院でも苓桂朮甘湯を採用するようになったほどです。しかし、最初に紹介された患者さんがダメでした。とくに生理前になると心が乱れて深いリストカットをくり返しました。その傷をなでながら「またやっちゃったかあ・・・」という日々が過ぎていきました。漢方以外にもいろいろ試しましたが全部不発。1年たった平成12年に2種類のピルが解禁されました。1つは私も治験に参加した経験があるため、これを処方しましたがダメ。もう1つを祈る気持ちで処方したところ、みごとにヒット!以来、リストカットはしなくなり、さらにはピルなしでもやっていけるようになり2人のお子さんに恵まれました。患者さんもよくも見限らずに来てくれたことでした。

 このようにピルならどれでも良いというわけではありません。その後、超低用量ピルなど様々な製剤が使えるようになりましたが、若年者、とくに中学生の女の子が、どれを飲んでも気持ち悪くなるとか、頭痛がするとか、やっぱり生理痛も今一つ、ということで、認可されているピルはすべて採用しました。そこでやっと何とかなる例もありましたが、それでもダメというケースが少なからずありました。

 そこへ登場したのが黄体ホルモンのみのジエノゲストという薬です。本当言うと登場したのはけっこう前で、子宮内膜症や子宮腺筋症が適応症でした。値段も高く出血のコントロールが難しいこともあり、いわゆるコストベネフィットが低く、私の嫌いな薬でした。

 しかし、投薬の工夫により出血のコントロールが可能になり、しかもジェネリックの登場でお手頃な価格となり私の好きな薬となりました。卵胞ホルモンを含まないのでピルで恐れられている血栓症のリスクもないため、年齢、体重、血圧、喫煙を考慮することなく多くの女性に使用可能です。しかも排卵抑制作用があるため避妊効果やPMD・PMDDの治療にも使えることが判明しました。ただしメーカーは対象はあくまで子宮内膜症・子宮腺筋症であり、最近1錠0.5mgという製剤が登場して月経困難症も対象となりましたが、避妊やPMSについては正式にはふれていません。ジエノゲストの利点は続けて服用することで、月経を半永久的に止められるということです。もちろん打率10割とはいきませんが、かなりの女性、とくにどのピルもダメだった若年女性にも使えるようになりました。