毎月受診している患者さんが珍しく小学生の娘さんを連れて来ました。
「今日は学校休み?」
「行きたくないと言うので連れて来ました」
この子は赤ちゃんの時からベビーカーに乗ってお母さんと一緒に来ていました。目がパッチリして可愛らしい子でした。ほぼ10年ぶり。そう言えば、この前もお母さんは「うちの子は不登校ぎみです」と言っていました。そのとき、5年前に『暮らしの手帖』で不登校の特集に書いてあった記事を思い出して、「どうして行けないの?」は禁句で、不登校「親の会」というのもあると紹介しました。
女の子はたくましくキリッとしていてイジメに遭っている様子はありません。
「学校なんてあんな軍隊みたいなとこ、行きたくないよね」
緊張気味でお母さんの後ろに立っていた、その子はピクンと反応しました。
「朝礼の時、ちょっと列からはみ出ると先生がいちいち注意をするんです」
悔しそうに言いました。
私は中学の卒業式の何ともやりがいのないリハーサルのことを思い出しました。
「そうだそうだ、バカバカしいから行かなくよろしい。先生が何か文句たれたら佐野のところに来い、と言っていたと言っていいよ」
老血がたぎりました。
中学2年の男の子が学校に行かない、と言うので困っているお母さんがいました。義務教育だからと言い聞かせてもラチがあきません。
「お母さん、それは間違いだよ。義務教育は親の義務で子供の義務ではないんだ」
私は心底感心しました。
「そんなにしっかりしたお子さんなら学校に行く必要なんかありませんよ」
これは本当の話で、世界で子供が義務教育を受けなければならないと明言している国はドイツだけです。
子供たちが学校で集団教育を受けるシステムを築いたのは、フランス人の宗教家ラ・サールです。この人にちなんで日本でも鹿児島ラサールや函館ラサールといった学校があります。ラ・サールは、それまで貴族が家庭教師をまねいて子弟を教育していたのを、庶民でもそれ相応の教育が受けられるように力をそそぎ、ある程度成功しました。18世紀のことです。かたやオランダでは軍隊の兵士に集団戦法をたたき込み、これはかなりの成果を上げ、世界を席巻したことがあります。
欧米各国もこの戦法を取り入れ、幕末の幕府に肩入れしたフランスは集団戦法を披露しました。気をつけ!左向けー左!です。大男の兵隊が号令にしたがってあっちを向いたりこっちを向いたりする姿が滑稽だと旗本たちは大笑いしました。こうなると織田・徳川連合軍が武田軍を撃破した「長篠の戦い」での火縄銃一斉射撃説はあやしくなります。
小中学校での教育が体質(心も含めて)に合わない子は10人に1人以上いると言われてます。多様性が重要視されるようになった現在、子供の個性に合った教育について見直すべきです。かく申す私も看護学校で講義するさい、居眠りしている学生たちを見て本当にこんなんで良いのかなあ、と授業内容を工夫しなければと思案しています。