私は恐竜大好き少年のハシリでした。小学生の頃は小学館『地球の図鑑』でジュラ紀と白亜紀のページを食い入るように読み込みこんで、記載されている恐竜はすべて覚えました。現在、ちまたには恐竜だけの図鑑があふれかえっています。あのときこんな図鑑があったらなあ、とつくづく今の子が羨ましく思います。半世紀以上前の恐竜たちは、まだ爬虫類あつかいでカラフルな羽毛が生えていませんでした。ただし、ティラノザウルスの姿がニワトリのように見え、その後に知ったカモノハシ竜にいたってはシッポ以外はまさに鳥で、「恐竜は鳥だ!」と大声で叫べば天才少年と言われたはずです。残念です。
恐竜が滅んだのは6600万年前の巨大隕石の衝突が原因だという説が有力です。恐竜以外にも多くの生物が絶滅して、生物進化史の5番目の大絶滅です。でも実は恐竜は子供の頃の私が気づいたように爬虫類ではなく鳥だったので、すべてが絶滅したわけではなく、現在では大きなシッポと歯をすてて翼とクチバシのある鳥として栄えています。都会で目に入る野生動物の多くは鳥です。哺乳類の中で目に着くのは人間で、多くはどこかに隠れています。もちろん郊外には人間をはるかに上回る哺乳類が家畜として飼われています。
恐竜時代は1億年以上も続きましたが、ジュラ紀と白亜紀で恐竜の種類は大きく様変わりしました。これは草食恐竜の餌となる植物が変化したためです。
ジュラ紀はシダ植物と裸子植物が栄えていました。これらの植物は大木に育ち、葉も柔らかくて食べやすかったのでアパトザウルス(私の子供のときはブロントザウルスと言われていました)やプラキオザウルスといった首の長い大型の恐竜がかっ歩していました。
しかし、ジュラ紀の末期になると大陸が分裂したり、その分裂した大陸どおしが衝突したりで天候が目まぐるしく変動して、植物は大木まで育つのが難しくなりました。このあたりから私の知識は稲垣栄洋著『植物はなぜ動かないのか』(ちくまプリマー新書)に寄りかかってきます。中高生を対象にした本ですが、これは名著ですよ。
目まぐるしく変化する環境に適応したのが、花を咲かせて短期間で種子を作り、さらに果実によってその種子をあちこちにばらまく能力を獲得した被子植物です。被子植物もユトリのある環境では大木にまで成長しますが、多くは草として草原を形成しました。ノンビリと軟らかい葉っぱを食べていたプラキオザウルスやステゴザウルスは硬い草を食べるのが苦手だったため、もっぱら草原の草を餌とするトリケラトプスの時代となりました。
被子植物はこのように環境に適応するのが早かったのに対して、恐竜は対応が遅れたため隕石が衝突する前にはすでに数を減らしていたようです。
ここでやっと「植物に学ぶ生き方」の話題になります。心身症の患者さんを診ていると、ほとんどの方が職場や家族の問題を抱えています。要するに環境に適応していないのです。私は、いっそのこと仕事を辞めたらどうかとか、めったにはありませんが離婚を勧めることさえあります。植物は動くことはできませんが、被子植物は環境の変化に合った新しい種を作ることで次世代に命をつなげています。だから自分から動く必要はありません。ただし、環境が合わなければ枯れます。植物はあちこちにすき間なく生えていますが、よく見るとそれぞれ狭い範囲ですが、その場所に適応した種のみが栄えています。人間もクヨクヨと悩まないで自分の生きる場所を探すのが大切で、絵本作家の五味太郎さんは『大人問題』で、人生の目的は自分の居場所を見つけることだ、とシミジミ語っています。