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第558回 忙酔敬語 産後のリスク管理

 株式会社GLAB代表の蒲田和芳先生から産後のリスク管理についての講演を依頼されました。産後の1ヵ月健診が過ぎると我々産科医は「やれやれ、無事に終わった」とその後はほとんどノータッチなので、産後の管理と言われてもなぁ、とちょっと困ってしまいました。しかし、蒲田先生の経歴を調べているうちに以下のことが判明しました。

 蒲田先生は学生時代ラグビーに打ち込んでいましたが、自身、大腿四頭筋断裂という重症を負いました。また、同期の友人がラグビーの事故で頭部に負傷して他界しました。これらが理学療法士への道に進むきっかけとなりました。また、知りあいの女性が産後に腰痛(仙腸関節痛)で長患いしたのにかかわってから産後の骨盤関節痛に悩む女性を支える決意を固めました。どうも、非常に熱量のある方のようです。

 確かに産後に恥骨結合の痛みや腰痛を訴える褥婦さんは少なからずいます。ただ妊娠中の痛みと比べて頻度が少なくなるので、「お風呂に入ったら治りますよ」ですますケースがほとんどです。その後も痛みが続けばまた受診してくれるかと思いきや、「何でもないと言われたのに」と整形外科などの他科に行く可能性もあります。要するに当方に愛想がつきたのかもしれません。「もし痛みが続くようだったら我慢しないでまたいらしてくださいね」、ともっとやさしく対応すれば良かった・・・。

 逆に他の産院で1ヵ月健診で何でもないと言われ、3年近くにわたって尾骨痛に悩まされたお母さんがいました。こんな場合、私の得意技の鍼治療をします。昔なら痛い場所に直接治療をしましたが、15年前からは帯広の吉川正子先生に伝授された「陰陽太極療法」で治療するようになりました。この治療法は痛い部位と180度反対側の部位に治療します。右手に痛い部分があれば左足に治療穴を取って治療します。鍼はごく浅く少ない刺激で十分です。要するに痛い治療法ではありません。私はそんな反対側なんてややこしい治療をして、と当初は引いていましたが、骨盤痛といった微妙な部位を治療する必要に迫られてから、この治療法を取り入れ、その効果に驚きました。この尾骨痛のお母さんには頭頂部に骨にそって鍼をすべり込ませました。尾骨と頭頂は反対側です。

 「さあ、立ってから坐ってみてください、痛みはどうですか?」「あれっ、痛くない!」

 痛みが続いていると脳の外側前頭前野という痛み刺激に関連する部分が、「まだ痛みはあるぞ」といった誤った指令を出します。こうなると局所の痛みに作用する消炎鎮痛薬は効きません。鍼治療は神経を介して外側前頭前野に作用するので即効です。

 蒲田先生から依頼された講演会の参加者はほとんどが理学療法士の方々です。鍼治療について語っても戸惑うばかりでしょう。郷久理事長の著書『女性の心身医学』がほぼ完成しましたが、あまりにも厚すぎですので私の「東洋医学」の鍼治療の部分を削除しました。漢方なら自分も使ってみようかなと思う読者がいるはずですが、鍼治療は基礎から勉強するにはハードルが高そうです。そこでバッサリ10ページほど削ることにしました。

 今回の講演では鍼治療の効果についても少し触れましたが、「陰陽太極療法」を参考にして、痛いところへの治療にこだわらず全身をリラックスさせるようにと提案しました。東洋医学については参考程度に語ってください、と言っていた蒲田先生も満足されたようです。講演会では骨盤痛以外でも尿失禁や腹直筋離開といった軟らかい部分についてのセッションもあり、私にとって産後の問題をあらためて認識させられました。