院長ブログ カーブ

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第548回 忙酔敬語 子宮が収縮しない!

 分娩予定日をとっくに過ぎているのにお産が始まらない妊婦さんに対してはいろいろな考え方がありますが、当院では入院してもらって無理のないように陣痛促進剤を使って分娩をうながしています。たいていは2、3日で産気づいてきますが、なかには何の反応も示さない妊婦さんもいます。

 予定日を大幅に超えると赤ちゃんを守っている羊水が少なくなったり、胎盤の働きが限界に近づくため、モニター上赤ちゃんが白旗サインを出すため、帝王切開することがあります。

 骨盤は広々として一見安産タイプなのに、3日間、陣痛促進剤を使ったのにうんともすんとも反応しないお母さんがいました。本人と話し合った上、4日目に帝王切開することにしました。手術当日の診察は私が担当しました。赤ちゃんの頭ははるかに高く、「これじゃあ、いつお産になるか見当もつかない。もしも自分の娘だったら帝王切開をすすめますね」と念を押しました。

 帝王切開は順調に行われました。しかし、子宮の収縮が悪く、出血が多くなりそうでした。点滴内に収縮剤を入れてさらに子宮を手のひらでピシャリと叩きました。たいていはこのピシャリで子宮は硬く収縮するのに反応が今一つでした。子宮が収縮しないと胎盤とつながっていた血管が開いたままなので大出血します。お腹を閉じる頃には子宮は硬く収縮していました。

 しかし、それからが大変でした。夜間になってから大出血! 後手に回らないように患者さんの様態が悪くなる前に輸血をオーダーして、子宮内に止血用のバルーンを挿入しました。さいわいにもこの日は無事に乗り越え、患者さんは翌日から食事を摂れるまでに回復しました。我々は大わらわでしたが、本人はただ横になっていただけで、血圧が下がって具合が悪いという自覚症状もなく、実際にシンドイことはないようでした。しかし、輸血の話をしたり、血が止まらない場合は搬送するかもしれないという説明を受けるたびに、ご主人ともどもさぞ不安な思いをしたでしょう。

 どうして患者さんの子宮は収縮しなかったのか?と考えました。収縮不全はポッチャリ型のお母さんに多いと言われ、そう言われればそんな記憶がよみがえりました。何でもポッチャリが収縮ホルモンに影響を与えるそうですが、これはあくまでも仮説の一つです。私なりにもある仮説が閃きました。この患者さんの子宮はもともと強く収縮することはなかったのではなかろうか? となると生理痛を経験したことはないのではないか? さっそく状態が落ちついて回復室から一般病室に移動している患者さんに確認しました。はたして生理痛で悩まされたことはなかったとのこと。やったー! しかし、さらに確認しなければならないことが出てきました。生理痛は子宮内の血液などを排出するために生じる痛みです。基本的に分娩と同じ。収縮力が弱ければ血液はゆっくり排出されるので、月経の持続時間は長いはずです。ふつうは4、5日なのに10日間くらい続くのではなかろうか?翌々日の朝、確認のため訪室しました。患者さんはまだ朝ご飯の最中でした。

 「2、3日で終わりますよ」  この一言でわが仮説は微塵にくだけました。でもこうして脳を刺激するのはわれながら良いことだと思います。患者さんもこころよくブログに書くことを承諾してくれました。