院長ブログ カーブ

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第542回 忙酔敬語 歩幅について

 ある新聞のコラムに、歩幅がせまい人は認知症になるリスクが高いので、記者も今後は大股で歩いて老化を防ごうと書いてありました。

 こいつはバカかと呆れてしまいました。年をとると歩幅がせまくなるのは自然現象です。思いきって歩くと転倒することがあるので、歩幅を広げることができなくなるは当たり前のことです。大幅で歩くよりも小幅で歩く方が転んでも軽傷ですみます。

 私は3.5kmの道のりを歩いて通勤していますが、20年前は40分くらいで到着しました。それが年を重ねるにしたがって今では早くて45分、気温が高めで汗をかくようならブラブラと50分以上かけて歩いています。自分の感性にしたがっているうちにそうなってしまったのです。早朝、高齢の女性が「健康法」にしたがってマジメに大きく手をふって歩いているのを目にすると、そんなに気張らずにマイペースでいいのになあ、と思います。

 統計をとれば大幅で歩く人は小幅で歩く人よりも認知症が少ないことは誰にでも予想がつきます。だからといって大幅で歩けば認知症が改善することはないでしょう。歩幅と認知症は相関はするでしょうが、これはあくまでも前後関係です。

 昔、オーストラリアの研究者が5000人くらいの女性を対象にした大規模な調査をして、スポーツをする女性には月経前症候群や更年期障害が少ないと発表しました。さらに月経前症候群でツライ思いをしている女性は更年期障害でも苦しむという救いようのないデーターも出していました。それはそうでしょう。スポーツができるんだったら体調は万善なのは当たり前です。これも統計上は相関関係はあるでしょうが、あくまでも前後関係だと思います。それを真に受けて体力のない人が無理にスポーツをしてもロクなことはないでしょう。その大規模調査後、スポーツをしたら改善したという報告はあまり目にしていません。おそらくスポーツをすること自体ままならなかったのでしょう。

 お年寄りに多いパーキンソン症候群の特徴の一つに「こきざみ歩行」があります。歩幅が小さいために転倒する危険ありと、歩幅を広げて、かかとから着地するように指導している医療者もいるようですが、かえって思いっきりスッテンコロリンして頭を打って大ケガをするのでないかと心配になります。

 昔、ご近所・医師会懇談会の近況報告で、ある高齢の外科医の先生が、「最近、パーキンソンが進んでオバケを見るようになりました」と言いました。テレビの下などにいるはずのない小さい子供たちが遊んでいるのを見るようになったのだそうです。これはレビー小体型認知症といって、小動物などがハッキリと見える幻視です。

 「格好いいなあ!」と心底感服しました。自分も認知が衰えるようになっても、この先生のように客観的に淡々と受け入れていきたいと思いました。また、ご両親などにパーキンソン病の方がおられる患者さんには、「あらかじめ、オバケが見えることもあるよ」と教えておいた方がよいと忠告しています。「お母さん、そんなの見えるわけがないでしょ!」なんて言ったら、かえって本人の不安をあおり立てるだけですから。

 BSプレミアム『にっぽん百名山』では、登山のポイントとして歩幅はせまくゆっくりと、と耳にタコができるほど何度も解説しています。ある勉強会に参加したときのことでした。近くの公園の坂を2段上がりで昇っていた私を武道の達人宮本先生が言いました。

 「佐野先生は山登りをしたことがないんですね。そんな歩き方は危ないですよ」