年をとり人畜無害に見られるようになったためか、最近、性にまつわる相談を受けることが増えてきました。
「夫に求められても痛くて困るんです」
「ご主人のこと嫌いですか?」
「いいえ、好きです」
40歳代なかばの方です。ご主人は出張で家にいないことが多いとのこと。お子さんは2人いて正常分娩でした。診察してみると異常というほどのことはありませんが確かに痛そうでした。でもお産の経験もあるのでゆっくり落ちついて対処してもらえば何とかなりそう。おそらくしばらくご無沙汰だったため萎縮したのでしょう。
「大丈夫、とくに問題はありません。仲良し用の潤滑剤がありますから、薬局で買って2人で使ってみてください。そして、パパ、わたし逃げないからゆっくりやって、と首を抱いて耳元でささやいてください。ご主人も安心して気分が高まりますよ」
われながら良いことを言ったと思って、性教育にくわしい助産師Mさんに、オレ、こんなことをした、と報告しました。私はほめられて伸びるタイプです。はたしてMさんはニコニコしながら言ってくれました。
「先生はエライです。ふつうなら潤滑剤の紹介だけですませるのに」
これは思いつきでおこなったことではありません。
けっこう前のことになりますが、恋愛結婚したのに性交痛のため子供ができないと受診した患者さんがいました。幼いときに、外陰に炎症を起こした際、お母さんの手当が乱暴でトラウマになり、それ以来、他人に触られただけで足を閉じてしまうようになったそうです。当時は心身症の患者さんに対しては、基本にのっとって性格検査をしていました。本人もご主人も問題はなく、とくに本人は予想していた以上に安定したタイプで、トラウマがありそうには見えませんでした。実際、診療中もほとんどニコニコしていました。
そこで、診察する前に筋肉の緊張も取る抗不安薬を飲んでもらって、徐々に腟壁を広げける工夫を試みました。はじめは緊張していましたが、徐々に緊張はとれていきました。緊張が取れて半年、めでたく妊娠しました。でも基本的に内診はコワイので分娩は帝王切開としました。
斗南病院の池田詩子先生は北海道性科学コンソーシアム代表世話人です。オンラインの講演会で、このような患者さんに治療をおこなった結果、帝王切開ではなく経腟分娩した症例を発表されました。さすがだな、と感心しました。
男性医師が多数の時代、女性の性の問題は封印されていました。半世紀以上も前に活躍したドクトル・チエコさんは、そんな性問題のパイオニアでした。中学生の私は母の『主婦の友』で先生の記事を読みふけりましたが、しょせん一匹狼みたいな存在でした。
その後、千葉の大川玲子先生が日本性科学会をたちあげ初代会長となり、現在に至っています。オシッコの問題を抱えている女性も少なからずいます。昔は泌尿器科と言えば男性医師の世界でしたが、最近では女性医師も多くなり、ウロギネコロジーという言葉も認識されるようになりました。婦人科領域と泌尿器科領域はとなりあわせです。札幌ではまだ多くの女性が別々に診療されていますが、総合的に診てくれる施設は増えています。