佐野理事長ブログ カーブ

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第533回 忙酔敬語 倫理委員会

 学会発表が好きで、コロナ禍でもオンラインで年に3、4回は参加しています。本当は旅行がてら現地に行きたいのですが、もう少しの辛抱です。

 今年の5月に札幌で全日本東洋医学会学術総会を開催します。私はその世話人の一人として頑張っています。最近、気になっているのが発表演題が倫理委員会で承認されているかどうか?ということです。

 大学病院レベルなら倫理委員会は常設されているので問題はありません。しかし、東洋医学会で発表されるのは個人開業のクリニックからがほとんどで倫理委員会と言われても困ります。昨年、東洋医学雑誌に投稿したところ、「倫理委員会で承認されましたか?」という確認のメールが来ました。そんなものはないので、具体的に郷久理事長および晴朗院長からOKが出ています、と返事したところ、それ以上の追求はありませんでした。

 2月末に日本心身医学会北海道支部例会が開催されました。一般演題のセッションで、ある精神科病院からの症例報告のスライドのかたすみに「本演題は当院倫理委員会の承認を得ています」と記載されていました。なるほどこうゆう手があるんだと納得しました。

 昔はノンビリしたもので、倫理に反するかどうかは会場の参加者の反応で分かりました。

東洋医学会で、高齢者施設から老化が進行しないようにと認知がかった入所者のご飯に八味地黄丸エキス剤を振りかけて提供していると自信満々の発表がありました。どうせ味は分からないのだから問題ないと演者は胸を張っていましたが、会場のアチコチから「ヒドイ!」という声が上がっていました。

 当時から症例発表は個人情報に問題ありと認識していた人はいて、発表時、「患者さんのプライバシーの問題がありますので、これ以上の発表はひかえます」と、演題名と自己紹介だけで終えてしまい、会場の参加者を唖然とさせた奇人もいました。患者さんの同意を得ています、の一言をつけ加えればいいのにと思ったことでした。

 私も症例報告をよく行っていますが、必ず患者さんに「学会で発表していいですか?」と確認しています。おおかたは喜んでくれますが、ひょっとしたら断りにくい何かがあるのかも知れません。今では心の片隅で奇人呼ばわりしてすまなかったと思っています。

 医学研究の基本として動物実験があります。マウスやラットが使われますが、昔、産婦人科領域の心身医学のパイオニアの1人であるK先生が、「ネコは情動的な動物」という理由でネコの脳に直接刺激した成果を発表されました。このネコの実験はK先生のライフワークみたいなものでしたが、今では倫理的な理由で実験は不可能でしょう。

 ドイツでは採卵に必要のない雄のヒヨコが年に4500万羽殺処分されていましたが、ヒヨコに孵る前の卵の段階で雌雄を判断しなさいという法律ができました。さらに受精して8日以上たてば卵の中のヒヨコの赤ちゃんは痛みを感じるようになるそうなので、それ以前に判断しなければなりません。そのため、卵が値上がりしましたがドイツ人は我慢しているそうです。日本では雄のヒヨコは飼料・肥料として利用されていますが、世界の情勢によってはドイツみたいになるのかもしれません。

 このように動物実験に関しては倫理的に判断するのは比較的簡単です。しかし症例報告については萎縮しないでもっと自由でいいのではないでしょうか。先ほど紹介したご飯に八味地黄丸をかけるといった報告のように、参加者の判断にゆだねてよいと思います。