佐野理事長ブログ カーブ

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第521回 忙酔敬語 人生7割で生きよう

 最近、患者さんに口を酸っぱくして言っている言葉です。調子に乗って看護学校の講義の締めくくりにも使い、「試験もほどほどの点数で良いよ、満点なんか期待してないから」と学生を安心させました。しかし結果的に大多数に満点をつけてあげました。

 「勉強は落第しない程度で良いから何かスポーツをしてカラダを鍛えなさい」

 札幌医大初代学長兼初代産婦人科教授の大野精七先生が医局同門会の席で必ず口にしていた言葉です。大野先生は、ウサギの耳にタールを塗って世界に先がけて人為的に癌を発症させノーベル賞級の研究をされましたが、遊びにも熱心で三笠宮寛仁親王を担ぎ出して「宮様スキー」と称してスキーの発展に尽くしました。そして97歳で大往生。

 葬儀は大學葬で大學の講堂で行われました。私の知るかぎり札幌医大の大學葬は後にも先にもこれ一回きりです。参列者はもちろん全国級。医局に風采の上がらない爺さんが来て「東大の小林ですけど」と言いました。秘書の冨田さんに「小林って爺さんが来てるよ」と言うと、冨田さんはピョンと跳びはね、「こちらへどうぞ」と丁重に案内しました。晩年まで数々の手術解説を書いたあの小林隆名誉教授だったのです。葬儀中には「三笠宮寛仁親王」とアナウンスがあり、ヒゲの宮様が威風堂々と現れて献花され、颯爽と立ち去りました。皇族の方々ってけっこう忙しいんだなあ、と思ったことでした。

 「佐野、お前の顔には死相が現れている。ユトリを取っておかないと危ないぞ」

 50歳間近のときに丸山淳士先生に注意されました。当時、行き帰りの7㎞のウィーキングの他に早朝5kmのジョギングをしていました。ジョギングは3㎞を過ぎた時点からいわゆるランニングハイになって、いろいろなアイデアが浮かんで楽しくなります。休日の朝は9㎞走ってご機嫌でした。しかし、確かに疲労感が抜けないため体力回復の十全大補湯をかかさず飲んでいました。いさぎよくジョギングはやめてウィーキングだけにしました。その年の秋の学会でお馴染みの先生に「佐野先生、今年は顔色が良いですねえ!」と褒められました。丸山先生の言ったとおり危ないところでした。

 北大農学部准教授の長谷川英祐先生は、「3割のアリは働いていない」ということを発見して話題を集めました。一般向けの本も書かれていますが、4年前、札幌市医師会学術講演会市民公開講座で講演されたので市民にまぎれて参加しました。会場に長髪を後に束ねた汚らしいオッサンがいたので気になりましたが、この人が長谷川先生でした。開口一番、自分は慢性腎炎で透析を受けているため教授になれないと言われました。先生の研究はフィールドワークが中心です。アリの集団を観察して、3割のさぼっているアリを除去したところ、7割の働き者から3割の怠け者が出現し、どう操作してもこの比率は変わらないとのことでした。10割で働く集団は何かあったときに補充が効かなく破滅への道まっしぐらになり、そのような目で他の生物を観察するとどれも3割くらいのユトリを保っているそうす。人間をふり返ってもユトリのない生き方をしている人は危ないので気をつけなければならない、と言いながらフィールドワークに参加しているバイトの学生に対しては血尿が出るまで働かせているため、教授会で問題になったそうです。教授になれないのは、こうしたパワハラ行為からきたものらしいのですが、長谷川先生は学生はいくらでも補充がきくと考えているようです。学生はアリではありません。個人個人も7割の体力で働かせなければなりません。まさに「灯台もと暗し」でした。