讀賣新聞の『人生案内』を読んでいると、ふーん、世の中にはこんな人もいるんだな、と人に対する見方が広がることがあります。朝日新聞の『悩みのるつぼ』が土曜日の週1回なのに対して、『人生案内』は原則年中無休です。したがって『人生案内』の相談は、そんなこと自分で考えろよ、と言いたくなるような内容が大多数ですが、とにかく毎日なので読者も気軽に相談できるようです。2,3年前まではバカバカしいと思っていましたが、日々の診療の参考になるので、最近ではかならず目をとおしています。
なかでもお気に入りは恵泉女子学園大学学長の大日向雅美先生の人生案内です。とにかく思いやりに満ちあふれていて、しかも冷徹な信念がうかがえブレがありません。ご専門は発達心理学です。
大日向先生はいわゆる「三歳児神話」について疑問を提示したことで知られています。三歳児神話とは、赤ちゃんが生まれたら三歳になるまで、お母さんがピッタリとつきっきりで子育てに専念しなければ、子供の心の成長に悪影響をおよぼすという考え方です。
私も4,5年前まではこの考えに賛成でした。保育士のお母さんが職場復帰のために一歳の我が子を別の保育園にあずけるために診断書の作成を希望されて受診しました。なぜ自分の子育てに専念できないのかと本気で怒ってしまいました。職場には我が子はあずけられないという規則があり、収入のためにはやむを得ないとのことでした。
今でも一歳までだったら母乳育児の問題も含めて、産んだ母親が育児の中心となるべきという考えは変わりませんが、一歳を過ぎると子供の関心は自分の年齢相当の子に向かうのは、子供の様子を見ているとよく分かります。その辺から子供どおしのおつき合いによって社会性が身につきます。相手が大人だけだと横のつながりが育ちません。
NHK BSプレミアム『ワイルドライフ』を見ていると、ライオン、クマ、オオカミなどの肉食動物では、兄弟どおしのじゃれ合いが成長に不可欠なことがうかがい知れます。親による危険からの保護や授乳、食餌はもちろん大事ですが、遊びも大切なのです。
2016年に札幌市は全国に先がけて「8週齢努力義務」という勧告を出しました。子犬・子猫の売買は生後8週齢以降にせよ、というルールです。当時の私は、母親によるスキンシップが大事なんだと勝手に理解していましたが、兄弟どおしによるじゃれ合いも心の成長に欠かせないことを最近になって納得しました。心の成長が不十分な子犬や子猫は甘噛みができず、飼い主の手足に引っ掻き傷を負わしてしまうことがあります。
「何ですか?その傷は。まさかリストカットでもあるまいし・・・」
「ネコに引っかかれました」、 「ネコ!? 虎かと思った」
当院の水柿先生は大勢の兄弟の中で育ったためか、その辺のバランス感覚が抜群で、6匹のネコに囲まれていても引っ掻き傷ひとつありません。
私は幼いころから大人と子供の興味の違いについて勘づいていました。母親が立ち話をして笑っていてもちっとも面白くありません。逆に自分がどんなに面白くても大人はつまらなそうにしています。五歳くらいのチビのくせに「大人になったらつまらなくなるから、今、面白いと思っていることを思いっきり楽しもう」と決心したことでした。
この決心は三歳の孫娘と遊ぶことに役立っています。危険のないかぎり好きなことを自由にやらせています。でもこれってけっこう疲れます。保育園・幼稚園は大事です。