佐野理事長ブログ カーブ

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第515回 忙酔敬語 熊がもどって来た

 今年のニュースで私にとってベストスリー入りの話題です。盤渓や南区にはときおり熊が出没して、その直後に馴染みの学会に行くと、「また札幌に熊が出たんですってね」と言われ、苦笑いしていましたが、今回はほとんど札幌のど真ん中。襲われてケガをされた方々は実に気の毒ですが熊も哀れでした。

 熊は生態系のトップです。トップが現れるということは生態系が健全な証拠です。昔、足尾の山は銅の採掘による大規模な公害のため、とうとう草木も生えない死の山になりました。そのため洪水は起きるわ、土砂崩れは起きるわで、ハチャメチャになりました。昭和の中頃になって、これではイカン、と民間人も参加して禿げ山の植樹活動が始まりました。自然の底力は想像以上のもので半世紀もたたないうちに緑はよみがえり、さらに特別天然自然物のカモシカや本州の生態系のトップであるツキノワグマも戻ってきました。

 自然物の番組で、一連の経過を紹介されたとき、「日本もすてたもんじゃないな」といたく感動しました。ただし地元を知る人によると、銅山の採掘跡の穴蔵にはいまだに瘴気が漂っているそうです。そりゃあそうだろうな、もともと有毒の銅があったんだし、まだいくらかはあるんだから。とりあえずは瘴気は地下深くで眠っていただければ良いのではないでしょうか。原子力廃棄物よりもはるかにマシです。

 私が生まれたころ、ゴジラが出現し、戦後の日本をさんざん荒らしたあげく、ある科学者が発明した最終化学兵器によって東京湾に骨となって沈みました。それまで採れていた江戸前の魚介類も姿を消し、隅田川も多摩川も腐臭を放ち、とても生き物が住める状態ではなくなりました。それが自然の回復により、平成に入ってから東京湾から再び江戸前の魚介類が採れだして、現在では寿司ネタとして十分に利用できるまでになりました。

 先進諸国のほとんどで森林が減少してきました。古代中国や古代ギリシャは緑の中で文明を開化させましたが、森林を伐採して銅や鉄を精製したため、国土を砂漠化させてしまいました。ドイツは森林を大切にする国として知られていますが、森林の国土にしめす割合は意外にも日本の半分くらいです。現在の日本は、炭や材木に頼っていた江戸時代の各藩よりも森林に対して冷淡です。それなのに森林の総面積はそれほど変化していません。

 飛行機に乗って下界を見れば明らかですが、日本の国土のほとんどは山地です。あまりにも急峻なので、住んで田畑を耕してみたいという気も起きません。建築用の木材の多くが輸入でなり立っているので、林業に対する関心は江戸時代よりも薄くなり、森林の多くは荒れ放題になってしまいましたが面積自体は確保されています。住みたくもない山地のおかげで大した努力もしないで緑自体は保たれてきたのです。小中学生のころ、欧米と比べて平地が少ない日本は残念な国だと思っていましたが、実はラッキーだったのでした。

 今回のヒグマの事件。専門家が分析した結果、増毛あたりに住んでいた熊が札幌の水路沿いに侵入して住宅街にたどり着いたと考えられました。増毛から札幌郊外まではどうやって来たのか? 昔、湿地帯だった茨戸地帯の一部が市民が中心となって緑地化に成功しました。熊はその藪の中に侵入して密かに水路に入ったのではないかと言われています。

 これは悪いことではありません。生態系の復活の成功例だと思います。ただし、人と野生との棲み分けが出来ていないと危険です。動物の行動ルートを研究してそれを遮断する手立てを考えるべきです。万里の長城ほどの手間ではないでしょう。