院長ブログ カーブ

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第505回 忙酔敬語 子宮さえあれば・・・

 菅総理が就任時、少子化対策として不妊症の治療に保険が使えるようにすると公約しました。私の不妊症治療に関しての認識は平成初期の段階でストップしているので、いつ出来るかも知れない赤ちゃんに投資するよりも、すでに産まれた赤ちゃんにお金を使った方が現実的ではないかと考え、産婦人科の世話人会でもそのような発言をしました。会長は日本産婦人科医会理事会でも同様な意見があり、政府に働きかけているところであると説明してくれました。その世話人会には不妊症を専門にしている女性医師M先生も出席していました。素敵な方ですが芯がしっかりしていて敵に回すとコワイので、「さっきはあんな発言をしてゴメンね」と、世話人会が終了してから言葉をかけました。

 「いいんです。中途半端な助成をされても大した役にはたちません。でも回数をかければ必ず妊娠させることができます」

 M先生はキッパリと言いました。

 そう言えばそうだな、といろいろな事例を思い出しました。

 一人は大人になっても生理がほとんどなく、通常はニワトリの卵大はある子宮がクルミくらいしかなく、大学病院で染色体検査まで受けた患者さんでした。20年くらいも前のことで今ほど生殖医療は確立していませんでした。それが私の友人の遠藤先生が天才と認めるK先生の治療を受けたところ、間もなく妊娠して元気な赤ちゃんを産みました。

 現在、生殖医療の技術が進み、60歳で妊娠した女性もいるそうです。おそらく日本では認可されていない方法で妊娠したのではないかと思います。とにかく子宮さえあれば何とかなる時代になりました。

 体外受精は特別あつかいされることもなくなり、今や日本の赤ちゃんの20人に1人以上は体外受精でできた子となりました。当院で古典的な治療をしてもなかなか妊娠しない場合は不妊症専門クリニックへ紹介しています。紹介したからといってすぐ体外受精となるわけではありません。M先生へ紹介したあるカップルは、不妊の原因は夫婦2人の喫煙にあると断定されて素直に禁煙。そして半年後に禁煙だけで見事に妊娠しました。M先生の説得力に感心しきりでした。当院にもどっても2人は禁煙を続けて無事に赤ちゃんを産むことができました。このようにM先生はコワイのです。 

 子宮がない場合はどうなのか? 私が大学院1年目のとき、月経がないので画像診断した結果、子宮がないことが判明した若い女性がいました。臨床チームのリーダーは気の毒そうに説明しました。

 「子宮の移植はできますか?」女性は落ちついた様子で訊きました。

 日本では心臓移植が成功して10年もたっていませんでした。リーダーは「無理ですね」と答えるしかできませんでした。

 それから約20年後の2000年にサウジアラビアで世界初の子宮移植が成功し、月経を起こすまでに至りました。2014年、スウェーデンで移植した子宮から世界初の赤ちゃんが誕生しました。赤ちゃんには問題はなかったとのこと。いまや世界では80例以上の子宮移植が成功して、その40%で赤ちゃんが産まれているそうです。

 日本では今年やっと日本医学会からGoサインが出ました。私個人の感想は「そこまでやるか?」です。でも子宮さえあれば何とかなる、と励ます材料にはなっています。