佐野理事長ブログ カーブ

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第496回 忙酔敬語 心配させてよ!

 40歳代の中堅キャリアウーマンが更年期がらみで受診しました。どうも職場替えがきっかけで、人間関係がうまくいっていないようでした。話をしているうちに涙を流したので、「誰かと相談しましたか?」と聞くと首をふってさらに涙を流しました。

 「ティッシュ!」 例のごとくスタッフに言って涙をふいてもらいました。例のごとく、というのは、私の外来では患者さんが涙することが多く、この日は3人目でした。

 患者さんは独身でご両親は健在です。せめてお母さんにでも最近の心境をカミングアウトすればよいのに思いました。でもマジメな本人は親に心配はかけたくないらしい。

 そこで思い出したのが、10年前の朝ドラ『ゲゲゲの女房』でした。松坂慶子さん演じる貸本屋の女主人が、常連客の青年の生活を心配してアレコレ世話をやきます。ある日、いろいろなストレスで煮詰まった青年がぶっちぎれて、松坂慶子さんに向かって「おばさんなんかに心配して欲しくないんだよ!」と叫びました。

 「心配させてよ!わたしの息子なんか心配したくてもこの前の戦争で死んじゃってもういないのよ・・・」

 女主人はさめざめと泣きくずれました。私の目頭からも涙があふれ出ました。

 患者さんのご両親は健在とのことでした。市内にお住まいなので週末などには時々会いに行くそうです。お母さんはきっと娘の様子が芳しくないのを何となく察知しているはずです。何も感じていなければバカです。

 私は『ゲゲゲの女房』のシーンを説明して、「ちゃんと話した方がお母さんは安心しますよ」としつこく迫りました。

 その後、患者さんは信頼できる上司に相談したようでした。少し明るい顔つきになりティッシュはほとんど不要になりました。でもご両親には何もなかったようにふるまっているとのこと。なかなかシブトイ人です。

 女性は男性よりもうつ病になる率は高いと言われていますが、自殺に至る例は男性の半分くらいです。おそらく軽症の時点で友人などにカミングアウトするからでしょう。なかには更年期障害と思って、この患者さんのように婦人科などの医療機関を受診することもあります。それに対して男は哀れです。漫画家のはらたいらさんは、さんざん苦しんだあげく男にも更年期障害があるということを知って安心したと言っていました。更年期障害といってもそう簡単に治るとはかぎりませんが、とりあえずお墨付きがついたわけです。自分に対しても言いわけができました。

 いろいろな悩みがあればため込まず、信頼できる人に話すことが大事です。簡単に言うと「グチをこぼす、弱音を吐く」です。野球の故野村監督は「ぼやき」の人でした。監督としての試合の勝率は5割以下なのに、何度もチームを優勝にみちびきました。弱い選手を率いての優勝ですから監督としての腕は並大抵のことではありません。ストレスもハンパじゃなかったでしょう。煮詰まれば我慢せずに報道陣だけでなく、奥さんのサッチーにもグチをこぼしたはずです。こうじゃなきゃ体がもちません。

 かく申す私も小まめにグチをこぼし、さらには弱音を吐いています。スタッフはじめ、4月から仲間になった水柿先生や豊山先生にも弱音を吐いて励ましてもらっています。

 「先生、まだまだ大丈夫ですよ、頑張ってください!」