札幌市は20歳以上の女性に対して2年ごとに子宮頸ガン健診(細胞診)の助成をしています。子宮頸ガンは秒殺ではなく年単位で進行するので、当院もそれに合わせて患者さんに「異常ありませんね、じゃあまた2年後にいらしてください」と説明してきました。石狩市も2年ごとに助成をしています。
ところが昨年から赴任した郷久晴朗院長は「細胞診は見逃しがあるので1年ごとにしましょう」と提案しました。細胞診は人間が顕微鏡を見て判断するので、標本の状態や検査技師によっては見逃しがあるというのです。大学時代のカンファレンスで、明らかに子宮頸ガンの患者さんが、2年前のガン検診では正常だったと説明を受けたと言うので、その標本を取り寄せて見直すと、片隅にガン細胞を認めたというケースが紹介されました。
このように細胞診はあてにならないので、欧米では頸がんウィルス検査がルーティンとなっています。日本では特別なケースでないとウィルス検査は自費となります。欧米のように10歳代で頸ガンワクチンを受けた場合、その後は細胞診とウィルス検査を併用して異常がなければ5年ごとの健診でOKだそうです。
札幌産婦人科医会の世話人をしていたとき、以上のことをふまえて札幌市にウィルス検査の助成をしてくれるように頑張ったことがありました。旭川市では自己負担が500円で検査が受けられます。札幌市もこのままじゃイカンのではないか、と産婦人科学術講演会の意見交換の場で北大と札医大の教授に迫ったところ、シラっとした空気が流れました。
晴朗院長にそのときの無念さを伝えたところ、「いくら細胞診があてにならないと言っても、日本の細胞診の的中率は80%以上と世界最高水準なので、費用のかかるウィルス検査は特にハイリスクでもなければ必ずしも必要ありません」と説明してくれました。「なんだ、俺、ムキになって馬鹿みたいだったな」と立場が違えば考え方も違うということを再認識しました。たしかに医療レベルが世界最高峰と言われるドイツでは、細胞診の的中率は50%とのこと。これならウィルス検査が必要になるわけです。
さらに月経不順や高齢女性に関しては子宮体ガンに注意しなければなりません。これにも細胞診は有用ですが、超音波検査と組み合わせる必要があります。超音波検査をすると一目で細胞診は必要なしと判断できることもあります。子宮体部の細胞診は器具を子宮の中に挿入するので苦痛をともなうことがあります。また子宮頸部細胞は良性と悪性の区別が明瞭なのに対して体部はハイレベルな判断が必要です。
札幌医大産婦人科の齋藤教授は楽観主義者で、「体ガンは出血などの症状が出てからでも治療が手遅れになるということはありません」と笑っていましたが、2週間前から不正出血に気づいたという女性が体ガンで亡くなったというケースを経験してからは、超音波検査も含めて女性は毎年婦人科健診をすべきだと思い知らされました。
よく「かかりつけ医」という言葉が報道されますが、メタボでもないのに皆さん、そんなに頻繁に病院にかかるものでしょうか? 私なぞは歯科の健診を年に2回受ける以外はこの10年以上病院に行ったことはありません。健康に問題のない女性はかかりつけ医なんかないと言っています。それでは我々産婦人科医がかかりつけ医となり、健康相談も含めて年に1回は健診しましょう。さらにつけ加えると最近、乳ガンが急増して子宮ガンを上回っています。必要なら信頼できる乳腺専門クリニックを紹介します。