佐野理事長ブログ カーブ

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第487回 忙酔敬語 母子手帳の空欄

 当院で記載されている母子手帳には「子宮底長」と「腹囲」の欄が空欄のままです。子宮底長も腹囲も昔はお腹の赤ちゃんの大きさを推定するために計測されました。

 赤ちゃんの成長が問題になるのは妊娠9ヵ月あたりです。週数で言えば妊娠32週から35週。妊娠高血圧などでお母さんの健康に問題があったり、赤ちゃんや胎盤に異常があれば成長は鈍くなります。妊娠32週を過ぎると赤ちゃんの体重は2000gに達します。それから週に180gから200g大きくなります。1日に換算すると26gから28gです。

 切迫早産で入院している妊婦さんに私はこう言って励まします。

 「無意味に時を過ごしているわけではあありませんよ。現に赤ちゃんは1時間に1g以上も大きくなっています。後は時間稼ぎするだけです」

 「そんなに大きくなるんですか!」

 ただ割り算した結果を述べただけですが、大抵の妊婦さんは元気づけられるようです。 さて子宮底長のこと。昔の(今でも)産科のテキストには次のような説明があります。 

 妊娠4から5ヵ月:妊娠月数×3cm

 妊娠6ヵ月以降:「妊娠月数×3」+3cm

 はじめにも説明しましたが、赤ちゃんの成長が問題になるのは妊娠9ヵ月あたりです。こんな月別のアバウトな解説では何の参考にもなりません。

 子宮底長を妊娠週数から解説したのは私の知るかぎりでは北里大学の島田信宏先生だけでした。

 島田信宏著『写真でみる周産期の母児管理』(南山道)には〈子宮底長の計測値は、「妊娠週数」-5=大体の目安(正常値)と考えてよい〉と書かれています。

 私は妊娠9ヵ月で「-5」はちょっと少なすぎだろうと、「-3」か「-4」としています。いずれにしても今では赤ちゃんの大きさは超音波で計測するのが一般的なので、「子宮底長」の欄は空白となりました。他院でマジメに記入されてきた妊婦さんには、当院がズボラと思われてはいけないので、「これからは空欄になりますからね」と説明しています。 

 「腹囲」はただ太っているかどうかくらいしか意味がないのでもちろん空欄です。

 平成30年9月6日に起きた胆振東部地震で当院もブラックアウトになりました。妊婦健診を予約していた方にはできるだけ変更の連絡をしたのですが、2、3人の妊婦さんが知らずに妊健に来ました。私は子宮底長を計測して、触診で今赤ちゃんがどんな位置にあるのか説明しました。妊婦さんは目を丸くして言いました。

 「超音波がないのにそこまで分かるんですか!」

 私の気分も高揚しました。オレもまんざらではないな。

 本来、妊婦さん自身が記録する部分ですが、「胎動を初めて感じた日」もほとんど空欄になっています。予定日を確認するためのものです。初妊婦さんだと妊娠20週、経産婦さんだと妊娠18週になります。3人目のお母さんがめずらく記入していたので確認すると、やはりその日は妊娠18週でした。2人で「なるほどね」と感心したものでした。