院長ブログ カーブ

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第482回 忙酔敬語 別れ方指南

 頭痛が治らないので更年期障害のせいだと思った患者さんが受診しました。

 「何か困っていることはありませんか?」

 「職場の雰囲気が悪いので止めたいんですが、上司がヤクザみたいに恐い人でなかなか止めさせてくれないんです」

 「それが頭痛のタネなんでしょうね。マジメに仕事をしているから必要とされるんです。もう、来て欲しくないと思われたら止めさせてくれますよ」

 「・・・・・」

 「たとえば茶碗を落として割って、スイマセンと言って泣いてみせるんです。仕事も要領悪くノロノロやって、注意されたらゴメンナサイと言って泣くんです。他に無断欠勤を3,4日するとか方法はいくらでもあります。要は嫌われることです」

 われながらロクでもないアドバイスをしてしまいました。患者さんもあまりのアドバイスに驚いたようです。さらにたたみかけるように言いました。

 「カラダが第一です。この際、退職金やパワハラウンヌンで争うこともやめましょう。早く解放されてラクになりましょうよ」

 ちょっと引いてしまった患者さんは少し納得したのか身を乗り出してくれました。調子づいた私は続けました。

 「私が学生のとき、プレーボーイの先輩がいて、とっかえひっかえ彼女を変えるんです。そこで私は訊きました。先輩、どうやって相手と別れるんですか? その返事が、佐野、そんなの簡単だ、嫌われることだ」

 プライドも何もあったものではありません。オレにはとても出来ないな、とすっかり呆れてしまいました。「要は嫌われることです」はこの言葉から発したものです。

 その先輩がその後どうなったかというと、成績優秀で学究肌、臨床医にはならず、学生時代から解剖学や人類学の教室に出入りして発掘調査に参加し、卒業後は東大で博士号を取り、今では某大学の教授になっています。マイペースを貫いて成功した希有な例です。一般向けの著書も多数あり、分かりやすくて楽しい文章です。女性関係以外は面倒見の良い先生で、私もお世話になりました。

 嫌われて別れる方法として、性格的に破綻した作家のやり方を思い出しました。別れたい女性と一緒に寝るとき、毎日、布団の中でわざとオネショをする、これを3日間続けるとどんな女性でも黙って別れてくれるそうです。誰にでも出来ることはありませんね。

 そんなバカ話をしているうちに患者さんは笑顔を見せてくれました。

 「こんな説明で納得していただけましたか?」

 患者さんはニッコリと頷いてくれました。横にいたスタッフはさすがに呆れたような顔をしましたが、薬の処方もなく診療はとりあえず終了しました。

 ここで心配になったのが、このブログを読んだ方が、佐野もそんな男だったのか、と思われることです。誓って言いますが、私はプレーボーイの先輩や破綻した作家とは真逆の人生を送っています。不倫をしている男を何人も目の当たりに見たことがありますが、よくもまあ、こんな面倒くさいことをするもんだと呆れました。こうした行為はマメでなければなりません。怠け者の私にはまったく縁のないことです。