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第464回 忙酔敬語 柴胡剤

 柴胡は漢方薬に使われる生薬の一つです。解熱作用と鎮静作用があり様々な方剤に利用されています。生薬のなかでも高価な方で、有名な朝鮮人参よりも薬価は上です。この柴胡をトップにすえた漢方薬を柴胡剤と言います。柴胡は補中益気湯や加味逍遥散の構成生薬でもあるので、これらをひっくるめて柴胡剤と考えている諸先生がけっこういます。なかには「柴胡剤は間質性肺炎を引き起こすおそれがあるので、ガン関係の患者さんには処方してはいけない」とまで言う人がいるので、柴胡剤の基礎知識を確認してみます。

 柴胡剤の構成生薬のトップが柴胡であるのは当然ですが、それを補助する黄芩という解熱薬とペアを組んで心身とも冷ます作用を確実にしています。柴胡剤としては大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯が代表格です。その他、四逆散、柴胡加竜骨牡蠣湯、それに日本人があみ出した乙字湯があります。

 大柴胡湯の対象となる人は、心身ともに熱く、頭痛、肩こり、腹部が張って吐き気があり便秘気味です。もともと熱性疾患に用いられてきましたが、最近ではイライラと精神が不安定な患者さんに処方されます。小児の自律神経失調症にもよく使われます。

 小柴胡湯は風邪をひいてしばらくしても発熱が続く場合に用いられてきました。自律神経の興奮(中医では「肝」と表現します)による炎症に効くとされたため、西洋医学的な肝炎と勘違いして慢性肝炎の患者さんに漫然と処方されたあげく間質性肺炎で亡くなった症例が続出して大騒ぎになった歴史があります。薬価の高い薬なので製薬会社があおったのと臨床家の無知が引き越した事件でした。本来、小柴胡湯は肝炎の薬ではなく、熱がなかなか取れなくて困ったな、という患者さんには実によく効きます。残念なことです。

 柴胡桂枝湯は風邪の引き始めに使う桂枝湯と小柴胡湯を合方した漢方です。上半身の汗、肩こり、頭痛、吐き気などを目標として使うとたいていの風邪に対処でき、胃腸障害にも対応できるので便利な方剤です。 

 柴胡桂枝乾姜湯は、大柴胡湯を使用して下痢と冷えで体が弱ってしまったため「しまった!」と反省してあみ出された処方です。乾姜で体を温めますが、柴胡・黄連であくまでも熱性疾患を攻めるのは変わりません。鎮静作用のある牡蠣(カキの殻)が入っているため、のぼせと冷えのある更年期障害も対象になります。

 四逆散は大柴胡湯を簡便にした処方とされていますが、黄連が含まれておらず消炎作用よりも、もっぱらイライラなどの精神安定作用のために使われています。大柴胡湯には入っていない甘草は心身の調和をととのえるので、甘草がトップだという説もあります。

 柴胡加竜骨牡蠣湯は、小柴胡湯に桂枝と鎮静作用のある竜骨・牡蠣が加わった処方です。もともとは熱性疾患が続いたためメンタルもまいった、という場合に用いられましたが、漢方の精神安定剤の代表格となっています。「まいった」と書きましたが、心身ともに熱を冷ます必要のある人に向きます。くれぐれも冷え冷えの人に処方してはいけません。

 乙字湯は「痔」の薬として本邦であみ出されました。炎症をおさえるため柴胡・黄芩、さらには女性向きの当帰まで入っています。メンタルにも効くのではないかと思っていたら、お産を終えたヤンママに「あれが無いと私死にます」と言われ、これも柴胡剤に入れるべきと考えています。そこで作った川柳が「これ無いと、わたし死んじゃう、痔の薬」  お粗末な結末で申し訳ありません。