院長ブログ カーブ

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第457回 忙酔敬語 自分のトリセツ

 取扱説明書、略して取説(トリセツ)。私はこのトリセツが苦手です。今まで何台か車を換えましたが、トリセツをきちんと読んだのははじめの2台目まで。あとは車屋さんの口頭の説明だけですましています。家電のトリセツの難解さは私以外の人にとっても悩みのタネになっているようです。

 黄体ホルモンを子宮内に装着して生理痛や過多月経の治療に使われるミレーナも、製薬会社の作成した患者さん向けのパンフレットを見ると、めまいを起こしてしまいそうなので、私なりにユルく軽薄なタッチで書いたパンフレットを一緒に手渡しています。しかし、あまりにもユルいので、スタッフがきっちりまとめた承諾書をさらに追加して、計3枚を1セットにして説明しています。  

 人間にもトリセツが必要なんだなあ、と感服したのは、7月7日の讀賣新聞の「My Answer」のインタビュー記事でした。 

 元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さん(47歳)は、幼い頃からじっとしていられず、思ったことを衝動的に口にしてしまう子でした。 学校では問題児あつかいされ、家族関係でも悩みをかかえ、はれてアナウンサーになっても求められている役割がつかみきれず、痛い人生を送ってきました。

 「41歳で発達障害と診断されたときは、もっと早く知りたかった、と思いました。ずっと感じてきた生きづらさに、軽度の注意欠陥.多動性障害(ADHD)という名前がつき、むしろホッとしました。それからは、自分の苦手なことや自分への対処法が分かり、周囲に自分のことを説明するのもラクになりました。自分自身の取扱説明書をもらった感じですね。自分を責めることも減り、少しは生きやすくなりました」

 この「自分の取扱説明書」という言葉が気に入り、その後、職場で悩みを抱えている患者さんにも応用しています。

 「自分のできる仕事の範囲を上司に知ってもらいたいのですが、どうしたら良いでしょうか?」

 非常にマジメな方で何事もキッチリ出来ないと自分を責めてしまいます。

 「ひょっとして宿題をほったらかしにしたことはなかったでしょう?」

 「はい、必ずその日のうちにやりました」

 「やっぱりねえ。昔と変わらないんだ。そうりゃあ、大変だ」

 私は中学3年のとき、修学旅行の体験を作文にせよとの国語の宿題をほったらかにして、とうとう提出しませんでした。最後には提出したはずだとウソまでつきました。修学旅行はつまらなく全然書く気分にならず。今ならいくらでも書けるのに当時はダメでした。

 患者さんの勤めている会社はブラック企業ではなく人間関係など問題はなさそうです。

 「いっそのこと今までお話ししてきたことをもとに自分のトリセツを作って上司の方に報告した方が良いですよ。上司もトリセツが分かれば有能な社員を使いこなせるので安心するはずです。何なら診断書を書いてお手伝いしましょうか?」

 実を言うと、かく申す私もバランスのとれた人間ではありません。漢字が苦手で患者さんに「腰椎痲酔」と説明するとき「腰と酔」の字が書けないことがあります。会計報告などまったくダメ。医師の仕事が体質にあってラッキーだった、とつくづく思っています。