院長ブログ カーブ

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第456回 忙酔敬語 中国人と中医学

 膀胱炎のため受診した患者さんはかなり疲れた様子でした。居酒屋を経営している中国人の中年女性です。ご主人は日本人で、女性の名前も日本名になっていますが、発音で中国出身と分かりました。膀胱炎の治療は原則として経口の抗菌薬3日間服用するだけで充分です。菌が体内深く侵入して高熱を出す腎盂腎炎になると10日以上の処方が必要ですが、膀胱炎程度だったら3日間でOKです。必要のないのに長期間処方すると腸内細菌などに影響が出てロクなことはありません。

 患者さんは疲れを取る必要があり、抗菌薬の他に清心蓮子飲という漢方薬を同時に処方した方がよいと判断しました。手元のハンドブックの清心蓮子飲の解説を開くと、「〔漢方の目標〕平素より胃腸虚弱の人が、排尿困難、残尿感、排尿痛などを訴える場合に用いる。〔中医学の目標〕気陰両虚・心火旺」と記載していました。これを本人に読ませると「そうだ、そうだ」とばかり深くうなずきました。

 消化吸収機能や全身機能の低下(気虚)と血虚(栄養不足状態)が進み脱水が顕著になったもの(陰虚)を気陰両虚といいます。心火旺とは熱性の疾患のことです。これらを中国語ではたったの7文字で表現しているのです。中医学の用語は日本人にとってはチンプンカンプンですが、中国人には生活に根ざしているようでした。

 1週間後、患者さんは晴々した様子で受診しました。清心蓮子飲が気に入ったようで希望のままさらに1ヵ月分処方しました。

 免税店で働いている中国人の女性が腹痛のため受診しました。色白でほっそりとして見るからに寒そうな感じでした。先ほどのハンドブックの当帰湯の項を開きました。〔漢方の目標〕体力が低下ぎみで、血色悪く、冷え症で、胸腹部より背部にかけて疼痛を訴える場合に用いる。〔中医学の目標〕気血両虚・寒痛。

 女性は「気血両虚・寒痛」を見て大いに納得したようでした。当帰湯を7日分処方しました。1週間後、すっかり良くなったと喜び、仲間の女性を3,4人引き連れて受診しました。なかには赤ら顔でポッチャリとしてとても気血両虚には見えない人もいましたが、とにかく処方して欲しいというので後は知らんぞとばかり人数分処方しました。このあたりから女性たちは本当に気血両虚・寒痛を理解しているのか疑問がわき起こりました。

 最近では、月経不順の中国人に温経湯を処方しました。「月経不順は気にしなくてもいいですよ」と説明しましたが、〔中医学の目標〕下焦虚寒・血瘀・血虚を見て、このとおりだ、と言うので2週間分処方しました。

 中国共産党政府は、漢字を簡略化した簡体字を普及させることで、国民に正しい歴史認識をさせないように操作していると言う輩がいますが、少なくとも当院を受診する患者さんは旧字体もよく理解しているようです。それにしても漢字の情報量はさすがというしかありません。漢字一つが単語一つに相当します。国際線の案内を見ると、フランス語が長ったらしく、中国語は簡潔、日本語はその中間です。ルイ・ヴィトンは Louis Vuitton 、ボジョレー・ヌヴォーは Beaujolais Nouveau とフランス語はアルファベットを無駄遣いしています。でも半角なら場所をとらないか・・・。

 私はアルファベット(ローマ字)を見ても、それが日本語でもすぐには理解できず、漢字や平仮名など、いろいろ入り交じった日本語が好きだな、とつくづく思っています。