院長ブログ カーブ

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第452回 忙酔敬語 思い出はタトゥーへ

 皆さんは大切な思い出はどのように記録していますか? パートナーやご両親、お子様の誕生日などです。

 「そんなこと、忘れるはずないでしょ!」

 確かに若いうちは大丈夫ですが、私も最近では子供達や妹の誕生日が曖昧になってきました。スマホや手帳にメモをするという手もありますが、どこに記録したか忘れてしまうことだってあります。

 あるアラフォーの患者さんの右の足の甲に、何やらのたうち回った模様が5,6行にわたって彫られていました。

 「それ何ですか?」

 「大事な思い出です」

 「お友達のお誕生日とかですか?」

 「はい、そうです」

 「じゃあ、もしお孫さんが生まれたら、さらに数字は増えるんですね?」

 「もちろんです」

 さいわいにも彫られた数字には消した形跡はなく、すべて楽しい思い出のようでした。 「私、週に1回ブログ書いてるんですけど、このことを書いて良いですか?」

 「はい、喜んで!」

 職業がら、患者さんのネタはいくらでもありますが、個人が特定されるような場合は必ずご本人の承諾を得るようにしています。最近の医学学会もその辺は厳しく、年齢は40歳代、50歳代とかの表現でとどめて、個人が同定されるような具体的な数字は記載しないように指導されています。ブログにアラフォーと書いても問題はありませんが、さすがに学会でアラフォーとは言えません。冗談が通用しないのが日本の学会の特徴です。

 東京工業大学名誉教授の生物学者、本川達雄先生は即興の歌が大好きで、講義のまとめは高らかな歌声で締めくくっていました。しかし、となりの教室で講義をしていた教授から不謹慎だとモンクをたれられたことがあったそうです。つまんない人ですねえ。

 本川先生は海外の専門雑誌に論文を投稿した際、抄録を英語の歌詞で書いて、それに相応した楽譜を作曲してつけ加えました。さすがにアクセプトされないだろうと回りの人たちは言い合ったそうですが、何とアクセプトされてしまいました。楽しそうな学会ですねえ。学問はこうでなくちゃおもしろくありません。

 本川先生のご著書で一般的に知られているのが『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)です。その他、多数の一般向きの著書があり、みな切り口は取っつきやすいのですが、なんせ世界的な学者ですから、ある一線を越えると理解不能になり、私なぞは2,3冊挑戦しましたがいずれも途中でダウンしました。  

 話が大いにそれました。このアラフォーの方のタトゥーはプロの友人が彫ったそうで、日本に伝わってくる以前のアラベスクやシルクロードで見られる唐草模様の原型みないなデザインでした。言われなければ数字には見えません。これからも新しい思い出ができるたびに1行ずつ増えて、一杯になったら左足にも彫られることでしょう。今後も長いおつき合いになりそうなので楽しみにしています。