「能町さんって東大出のオカマですよ」
帝王切開でお腹を閉じているとき津村先生が言いました。
手術が順調なときは痲酔科医もまじえてバカ話で盛り上がることがあります。医療をテーマとしたテレビドラマに異和感を覚えるのは、ジョークの切り口が実際の医療現場とは異なることです。産婦人科医会でも評価の高い『コウノドリ』の再放送を見ても、かたぐるしくマジメ一辺倒だったので、すぐにチャンネルを切り換えてしまいました。
当院での帝王切開の麻酔は自前なので、バカ話の相手はもっぱら津村先生です。今年の初場所に元大関照ノ富士が十両優勝したとき、私一人が盛り上がり、マスコミや当院の医師たちが冷めていたのに対して、「NHKジブ5時」でスモ女の能町みね子さんが照ノ富士のことをしっかり評価してくれたのでやっと溜飲が下がりました。そこで、「能町さんのこと知ってる?カッコイイねえ」と津村先生に話しかけたのでした。
しかし、これにはビックリ。その後、「ジブ5時」で能町さんを見ると、「もと男かあ・・・」とゲンナリしました。
私は本来、性同一障害の人々に対してはフトコロが深い方で、女性になりたい男性には女性ホルモン、男性になりたい女性には男性ホルモンの投与をしていたことがありました。その後、性同一障害の診断が厳しくなり、私が関与することはなくなりました。
7月下旬、ジュンク堂をうろついていたら能町みね子著『オカマだけどOLやってます。完全版』(文春文庫)を見つけ、即購入しました。いろいろタメになりました。
その一、女性の下着をつけるのは大変なこと。外来患者さんで外陰部の痒みで受診する方に対して、カンジダであろうが湿疹であろうが、一律に「キッチリした下着はやめて風通しを良くしましょう」と指導していますが、女性の下着の実感が今一つ理解できていませんでしたが、この本でよく分かるようになりました。
その二、オカマにもいろいろあるんだなあということ。能町さんは女性の友人とのつき合いも多く、女性を毛嫌いすることはありません。私は常々、マツコさんが女性に対しても女友達のように自然に接しているのが不思議でした。それに対して、クリス松村さんはチョッピリ嫌そうな感じ。映画評論家の淀川長治さんにいたっては女性がそばにいるのも嫌がり「早く帰って!」と言ってたそうです。
その三、服装について。能町さんが男性をやめた理由の一つがネクタイは絶対にイヤ!ということ。それに対して淀川さんはキッチリとネクタイをしてスーツで身を固めていました。ですからビートたけしさんが「淀川先生は女の人が嫌いでね・・・」とヤンワリと語るまではそんな人とは知りませんでした。淀川さんはたけしさんの映画をいち早く高く評価していたので、いくら口の悪いたけしさんでも表現はいたって穏やかでした。
その四、登場人物で一番興味を持ったのは、能町さんが高3のときに女装したさい、乗りに乗って自分のブラを外して能町さんに提供した女子です。おもしろい子ですねえ。
最後にもう一つ。能町さんは性同一性障害という言葉は病気みたいで嫌いだと言っています。また、女子っぽく見せるためにたゆまぬ努力をしてきました。もと男と知ってゲンナリしたと書いてしまいましたが、格好良いのは事実です。ブログですからご本人の目に入るかも知れません。お気を悪くされないことを祈っています。