院長ブログ カーブ

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第440回 忙酔敬語 お引っ越し

 四十代後半の患者さんが、車で1時間以上もかけて、原因不明の下腹部痛や腰痛などのため受診されました。不眠もあり、近くの何でも屋さん的なお医者さんから、私が見ても納得の薬を処方されていました。

 「この薬だったら食欲も出て眠れるようになったんじゃないですか?」

 処方内容を見れば患者さんがどのような状態か見当はつきます。

 「本当に助かりました」

 ただし、全身の痛みはなかなか改善しなく、整体マッサージを受けたところ「瘀血」があると言われました。そこで原因不明の下腹部痛とか「瘀血」で検索したところ、私が8年も前に書いたブログ「骨盤内うっ血症候群」にヒットしたそうです。

 「瘀血」とは東洋医学用語で血液が滞った状態のことです。一般的に血液ドロドロ状態と言った方が理解しやすいでしょう。ただし、高脂血症などによる血液自体のドロドロだけを意味しているのではありません。静脈が収縮して血液がサラサラと流れないのです。静脈が豊富で血液が滞りがちな部位では痛みとして自覚されます。女性の骨盤には子宮や卵巣があるので血管が豊富です。とくに左側の静脈は長く入りくんでいるので、何かストレスがあって血液サラサラ流れなくなると左側の下腹部痛として症状が現れます。特徴的なのは安静時に痛みが生じることです。朝起きたときに痛い、仕事で動いているときは気にならない。そう言えば、肩こりもするし、腰も痛いし、足先が冷える。東洋医学にドップリつかっている治療者のなかには、女性を見ればすぐ瘀血だと決めつける人もいます。

 私が瘀血と判断する基準は左側の骨盤壁に圧痛を認めることです。どこでも強く押せば痛いものですが、やさしく撫でても痛がります。血液検査で異常が出ることはありません。

 この患者さんには瘀血はありませんでした。しかし、私の判断基準は一般的ではありません。ふつう瘀血と診断する場合、顔色や舌の色や血管の状態、そして私とは違った腹診で判断します。ですから治療院での診断は間違っているとは言いません。ただし、瘀血に使われる桂枝茯苓丸や桃核承気湯などの駆瘀血薬は効かないでしょう。

 昨年、練馬総合病院 漢方医学センター長の中田英之先生に1年ぶりにお目にかかったとき、「最近、僕は漢方はほとんど処方していません。生活指導でたいてい良くなるからです」と言っていました。中田先生は、どうして漢方が効くのかというよりも、どうしてこんな状態になったのか、ということを大事にしています。

 中田先生の言葉を思い出して、この患者さんは一体どういう生活を送っているんだろう?と確認することにしました。 

 「この2,3年、何か変わったことはありませんか?」

 「実は3年前に今住んでいる所に引っ越しして来たんですが、千歳線のすぐそばで、電車の音がひどくて、それも朝から晩までひっきりなしでまいっています」

 私のマンションも学園都市線の線路沿いにあり、とくに私の寝室はほとんど線路の真上と言っても過言ではありません。しかし、千歳線と違って特急が通っているわけではなく一つの風景として溶け込んでいます。でも千歳線じゃなあ・・・。それはあんまりだ。

 「原因はそれですね」  ということで、また、お引っ越しすることになりました。