佐野理事長ブログ カーブ

Close

第425回 忙酔敬語 ぼやく・弱音を吐く・弱みを見せる

 何だか景気の悪いタイトルですが、実は私の心の健康法です。

 いろいろ煮詰まって先が見えなくなることがあります。そんな時は素直にぼやきます。

 「困ったなあ、もうダメかなあ・・・」

 ぼやく相手はたいてい当院理事長の郷久先生。

 「大丈夫だよ。何とかなるよ」

 答えは決まっているし、はじめからこう言われるのは分かっていますが、不思議と焦りは治まります。

 先月亡くなった野村克也監督は、ぼやくことで有名でした。リーグ優勝5回、さらに日本シリーズでも3回優勝したため名将と言われましたが、戦績を見ると1565勝1563敗76引き分け。勝率はほとんど5割です。試合ではそんなに勝っていないのです。もっと勝率の高い監督はいくらでもいますが率いている選手が違います。川上哲治監督はリーグ優勝11回、日本シリーズ11回優勝しましたが、王貞治、長嶋茂雄、いわゆるON砲を所有していました。私の父も生前、「長島と王がいれば俺でも勝てる」と言っていました。

 野村監督は選手を一から育てなければなりませんでした。ぼやきたくなるのも当然です。勝率5割でどうして優勝できたのか? 多分、負けたシーズンは大負け。勝てそうなシーズンになれば優勝をめざしてあの手この手をつかったのでしょう。本当を言うと私は野球にうといので憶測で書いているだけです。

 大相撲ならいろいろ書けます。先場所、引退した豪栄道。大関を33場所つとめ、大関での戦績は696勝493敗66休。これって大したもんです。スポーツ解説など無責任なもので、やれ精神力が弱いだの、引き癖が抜けないなどと勝手なことばかり言いますが、押し続けるのがいかに大変かは昨年のラグビーでのスクラム戦を見れば想像がつくでしょう。2016年の秋場所の全勝優勝は、近ごろの横綱不在の平幕優勝とは違って、大いに実力を発揮しました。白鵬は全休でしたが、横綱では日馬富士、鶴竜、大関陣には横綱をめざしていた稀勢の里、若武者照ノ富士、そして初場所に優勝した琴奨菊がいました。実力者を相手にした堂々たる全勝優勝でした。

 実は大関を維持するだけなら勝率5割を割っても可能です。負け越しをして角番になっても翌場所8勝7敗と辛くも勝ち越しをすれば大関は維持できます。負け越しを2回すれば大関転落ですが、その直後の場所で10勝以上の成績を上げれば大関復帰というルールがあります。具体的に言うと2勝13敗、その後全休となって関脇に落ちても、そこで10勝5敗となれば大関に復帰できます。ですから豪栄道の大関での戦績696勝493敗66休というのは手を抜いているわけではなく大したものなのです。

 最後に「もう限界」と弱音を吐いたのは当然で、これ以上やったら体が壊れるところでした。もうすでに一部は壊れていましたけれどね。

 相手に弱みを見せるということも自分を守るのには大切なことです。相手にもよりますが、弱みを見せられたらそれ以上は攻撃しないものです。動物同士の争いを見ても不利となれば尻を見せるか、犬だったら腹を見せてひっくり返ります。攻める方も、それ以上の争いは得策ではないので攻撃はここでストップとなります。ただし、弱みの見せ方に工夫が必要です。相手が安心できるように「まいった」を表明するのがコツです。