元大関照ノ富士が復活してきました。先場所、幕下から十両になったとたん、破竹の連勝で13日目で優勝を決めてしまいました。全勝優勝だったら幕の内復帰の可能性もありましたが14日目に実力者の錦木にやられ、さらに千秋楽も敗れてしまいました。でも大したものです。先場所の私の関心はもっぱら十両にありました。
私は圧倒的な体力にものを言わせた照ノ富士の相撲が大好きす。相撲解説の北の富士さんも両上手を引き絞った極め出しを「ちょっと強引だけど面白いね」と言っていました。新しい横綱の誕生かと思いきや、たび重なるケガと糖尿病というほとんど致命的な病気のため休場を続けているうちに、とうとう序二段というほとんど新弟子並みの番付までの転落。これで引退かと誰もが思いましたが彼は諦めませんでした。
昨年、ある柔道選手権の番組を見ていたら、観客席に横綱の鶴竜と照ノ富士が仲よくならんで観戦していました。日本人の関取はいません。モンゴルの力士は勉強熱心だなと思ったことでした。照ノ富士はときどき鶴竜と話し込んでいて血色は良く表情も明るく元気そう。ひょっとしたら復活するのではと期待しました。
12連勝したとき、嬉しくて郷久先生に「照ノ富士、十両優勝するかもしれませんよ」と言ったら「モンゴルだろ」というつれない返事。何という情けない言葉だろうとガッカリしました。朝日と讀賣の両大新聞も十両に関しては結果だけでコメントなし。元大関ですよ。もっと騒いでしかるべきです。どうも日本人は了見が狭い。英雄大好きなアメリカ人だったらたとえ外国人でも大いに評価するのになあ。
場所後、「NHKジブ5時」で、スモ女の能町みね子さんが、幕尻優勝の徳勝竜と炎鵬の活躍と同等に照ノ富士のことを解説していたのでやっと溜飲が下がりました。優勝インタビューで照ノ富士がちょっと冴えない表情をしていたのに対して、能町さんは「きっと全勝できなかったのが悔しかったんでしょう」と言い添えていました。
モンゴルのお相撲さんに心の弱い人はいません。大事な一番で緊張のあまり星を落とすということはまずありません。暴力沙汰で引退した日馬富士がその筆頭です。闘志がギラギラとみなぎっていました。たった300万人の国から多くの関取を輩出しているのには目を見はります。資源が乏しいので国に帰っても収入の保証はありません。墜ちるところまで墜ちても這いずり上がるしか選択の余地はなかったのでしょうが、ファン(私と能町さんだけ?)に多くの勇気を与えてくれました。照ノ富士はえらい!!
中国の歴史をみると中華はたびたび北方民族の侵入を受け、たいてい負けています。北方民族の代表格は古代では匈奴、中世では蒙古、近代では女真族です。女真族はツングース系の民族ですが、匈奴と蒙古はモンゴル系です。モンゴルは体質的に強いのです。中国は武よりも文を尊ぶ伝統があり、戦争でも『孫子』という現代にでも通じる兵法がありますが、実際の戦になるとモンゴル系の民族にやられています。リクツはともかく、兵隊がモンゴル系は関取クラス、漢民族は序の口以前なので勝負になるばずがありません。 モンゴルは広大で、モンゴル共和国にすべて納まっているわけではなく、中華人民共和国に内モンゴル自治区があります。まだ中国政府も深くかかわる余裕がなく、いまだに伝統的なゲルに住んだり馬に乗ったりしています。そんな内モンゴルから日本に留学している患者さんが来院することがあり、そのたくましさには感心させられています。