院長ブログ カーブ

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第403回 忙酔敬語 「雨乞い」みたいな演題

 漢方薬関係の学会に参加していつも残念に思うのはまるで「雨乞い」みたいな発表が多いことです。子宮内に胎盤が残ったので桂枝茯苓丸を処方したら間もなく出たとか、中途半端な流産に漢方薬を処方したら手術しないですんだとか、薬の効果との因果関係がはっきりしないのです。前後関係がまるで因果関係の証みたいな発表です。

 「雨乞い」の有効率は100%です。どうしてかというと雨が降るまで祈るからです。祈ったからといってすぐ降らなくてもいいのです。1ヵ月でも2ヵ月でもとにかく降るまで祈る。だから100%なのです。

 胎盤もよほどのことがないかぎりいずれは出ます。ですからこんな発表ばかりされていては漢方をやらない医師からバカにされるだけです。

 統計処理した演題は評価の対象になりますが、いかんせん症例数が少ない。再度、検討すればすぐに結果はひっくり返りそうです。統計は真実を現したものではなく、人間がこうゆう結果になるだろうなという感覚を無理くり数字で示したにすぎません。

 中途半端な流産に関しては10年前に私も漢方で治療したことがあります。桂枝茯苓丸や桃核承気湯など昔から妊婦に使うと流産の危険があると言われている薬を使いました。その結果、38例中36例が手術しないで内容物が完全に出ました。不妊治療を専門にしている先生たちは過度な流産手術が子宮を傷めるため治療に手こずる経験をしているので、「佐野、良いことをしているなあ!」と評価してくれました。私も鼻高々でしたが、何もしないで中途半端な流産を見守っている発表があったので、それと比べてみると漢方を使った方が3日ほど早く残留物が出るのでますます鼻高々でした。しかし、冷静に考えてみると何もしなかった施設では流産と分かった時点からカウントが始まります。それに対して当方は患者さんに治療の選択を説明して納得してもらってからカウントが始まります。ですからこの3日間の差は治療成績にはなんら関係がなさそうだと分かりました。私の鼻はつぶれましたが、逆に妊婦に使ってはいけないとされていた漢方薬は実は安全ではないのかという疑問がわき起こりました。その後、妊娠中に子宮筋腫のために腹痛で苦しんでいる患者さんに桂枝茯苓丸を飲んでもらったら「とてもラクになった」と喜ばれたことを発表しました。前回の妊娠時はドイツにいたので大変だったとのこと。これも1例報告なので準「雨乞い」だったかもしれませんが、信憑性がありそうだと思いませんか?

 ここで私がこれこそ因果関係を科学的に分析していると、昔から尊敬している細菌学の大家であるコッホの「コッホの原則」を紹介します。

 1.ある一定の病気には一定の微生物が見出されること。

 2.その微生物を分離できること。

 3.分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること。

 4.そしてその病巣部からはおなじ微生物が分離されること。

 あまりにも厳格な法則のため、これに乗っ取った実験結果はそうそう出ません。細菌も感染するにしたがって弱毒化されて同じ病気が起きないこともあります。しかし因果関係の確認に対する真摯な姿勢に鬼気迫るものを感じます。統計学が確立していない時代でしたが、いいかげんな統計よりもはるかに信頼性のある「原則」です。2024年から新1000円札紙幣に登場する北里芝三郎はコッホの弟子ですが師匠の方がやはり格上です。