院長ブログ カーブ

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第397回 忙酔敬語 『年収90万円でハッピーライフ』

 大原扁理さんが書いた「ちくま文庫」から出版された本です。この本の存在は以前から新聞広告などで知っており、読んでもいないのに無責任にも、無理して好きでもない仕事をして疲れ切っている患者さんに「100万円でも1年間暮らしていけるそうですよ」と語っていました。読もう読もうと思っているうちに大手の書店には見当たらなくなり、すっかり忘れたころにアイブックイトーヨーカドー福住店の文庫本新刊コーナーで発見しました。即決買い求めました。近頃まれに見る正解本でした。

 大原さんは1985年生まれの青年です。貧しい家庭に生まれ育ち、小学生の6年間と中学生の3年間、先の見えないイジメに悩まされ(子供にとって時間の感覚は大人に比べようもないほど長いのでその9年たるやまさに永遠です)、おまけにお母さんが大酒飲みで、それがハンパなく、4リットルの業務用のウィスキーを常備していて、それを起き抜けに1杯やって昼には完全にできあがっているという状態で、イジメについて相談しても学校はおろか家庭もあてにならないという、まことにもって救いようのない子供時代を経験したため、本来持っている発達障害的な人格にみがきがかかり、高校生のときにバイトで稼げることを知り、さらに高卒後は人生について諦念の境地に進み、25歳からは東京の多摩地区で週休5日の隠居生活を始め、年収100万円以下で6年間暮らし、現在は台湾に移住し、年収60万円以下で生活できるか実験中だそうです。

 人と交流するのも苦手ではっきり言って引きこもり。それが消極的な引きこもりではなく、散歩や読書が大好きで、季節の変化を愛でノビルなど食べられる野草があれば採取して1日の食費がたったの300円。読書は図書館を利用して、この無尽蔵にある本はすべて自分のもの、図書館はたんにそれを管理してくれている場所と認識しています。

 生活は投げやりではなく、きちんと3日に1回は洗濯をして、食事は玄米と無農薬の野菜中心で、隠居と言っても人生をすてているわけではなく、自分が嫌いなことは一切せずに日々楽しみながら生きています。まさにハッピーライフ。

 この自分が嫌いなことは一切しないというのがこの本のキーポイントです。「大事なのは、嫌いなことで死なないこと!」。ゴシック体で強調しています。人生に疲れている人は自分が何をしたいのか分からず迷っています。何をしたいかを知るのは難しいけれど嫌いなことは誰にでも分かります。大原さんはお金のやりくりに関しては私よりもよほどくわしく、『なるべく働きたくない人のためのお金の話』という本も書いています。私はお金についてはあまり興味がないので読んでいませんが、今回の本にも「低所得者にとっての税金・年金趣味の見つけ方」という項目があり、いたれりつくせりです。

 屯田の産婦人科に勤務している私がどうして福住のヨーカドーでこの本をゲットしたかというと、月曜日の午後は基本的にフリーなのでオファーされた看護大学や看護学校、大学の助産科などの講義にあてています。清田の看護大学に行く途中にブラリと立ち寄ったのがヨーカドーの本屋さん。授業が始まるまでの間に夢中になって読みました。これが最終講義だったので高揚した私は学生諸君に言いました。「この本は皆さんが今読んでいるテキストよりもこれからの人生に役立つよ」。「生産性ウンヌンカンヌン」と言った政治家がいましたが、この本は多くの迷える人たちの救いになるでしょう。韓国語にも翻訳されていて大原さんはひょっとしたら印税などでお金持ちになるかもしれません。