院長ブログ カーブ

Close

第394回 忙酔敬語 更年期の検査をしてください!

 60代の患者さんが言いました。更年期はとっくに過ぎています。また2年前に当院でホルモン補充療法をしていました。患者さんは思い詰めた表情でさらに言いました。

「ホットフラッシュで本当につらいんです。お願いですから検査してください」

 60代では卵胞ホルモン(いわゆる女性ホルモン)が低下し、卵胞刺激ホルモンが上昇しているのは常識です。ですからこの年齢以降で保険請求で検査すると査定(保健が効かないとの判断)されることもあります。自費ならOKですが、窓口払いが3倍になります。私は別の病気があるかもしれないと判断してホルモン以外の検査をしました。後日、患者さんが受診したので中性脂肪やコレステロールがやや高めだけで異常はないと説明しました。患者さんの顔つきが変わりました。

「えっ、あんなにお願いしたのに更年期の検査はしてなかったんですか? 中性脂肪のことは内科の検査で分かっています。2年前に理事長先生から処方していただいたホルモン剤はとても効いたんですよ!」

「ホルモンの結果がどうなっているのかは検査しなくても分かります。では2年前の薬を処方しましょう」

 患者さんは気分を損ねた風で帰って行きました。

 私も大人げなく、ちょっとスッキリしない感じになりました。何で、検査、検査と騒ぐんだろう。最近の研修医も何かあればすぐ検査するし、検査しなければ指導医に注意されるそうです。私が国保の審査委員をしていたとき、整形外科の医師たちが「何で触れば分かることでMRIを請求してくるんだろう!こんなことが続けば保険医療は破綻するぞ」と騒いでいるのを横で聞いていたことがありました。マジメな先生たちだな、と好感をいだきました。また、高価なMRIを買い込んだ施設は使わなければペイできないので、触れば分かることでもMRI検査をしたんだろう、ということも理解できました。

 1998年に出版された心臓専門医の権威であるバーナード・ラウン著『治せる医師・治せない医師』(築地書館)によると循環器疾患でも問診と聴診で90%の診断はつき、それ以上の検査は必要ないそうです。患者さんに目を合わせて話を聞いてじかに触れるのが医師の基本です。私も名医のフリをするのが好きで、よけいな検査はしたくありません。

 ときどき他院の検査では何でもないと言われた下腹痛の患者さんが受診します。話を聞くと朝から夜までパソコンに縛られた生活で肩はカチカチに凝っているとのこと。

「肩こりのツケがお腹に来ることもありますよ」と患者さんの背後にまわって、凝った部分に鍼治療をするとあら不思議、下腹痛はピタリと治ります。患者さんはもちろんビックリ。私はこんな治療が好きです。患者さんに言わせるとそれまでにかかった検査代はばかにならず、当院での治療費はその何十分の一くらいでした。

 さっきの話にもどります。あの日の私は朝からいろいろなことがあったので平常心ではありませんでした。一応、ホルモン検査をしなかったことについて謝罪しましたが、もう少し納得してもらうように話せたはずです。そうすればお互いに気持ちよく診療は終えたでしょう。これで愛想をつかされないで、つぎも受診してくれればと思っています。

 でも、一応大人なので求めに応じてわかりきった検査をすることもあります。