院長ブログ カーブ

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第393回 忙酔敬語 逆子のハリ治療

 現在の日本では(世界でも)逆子は帝王切開とほぼ決まっています。平成15年くらいまでは当院でも逆子の経腟分娩をしていました。とくに3回目以降の経産婦さんだったら気軽に行っていました。初産婦さんでも「私は舞台女優だからお腹を切らないで!」と強く希望すれば骨盤の写真をとって安全を確認した上でやっていました。やる気のある人はさすがで舞台女優はスンナリと元気な赤ちゃんを産みました。

 逆子がどうして危険かというと、お尻から出てきた赤ちゃんが両腕を上げてバンザイの状態になると、脇のあたりで引っかかってニッチモサッチモいかなくなるからです。そこで引っかかっても赤ちゃんの腕をさぐって両肘を出して分娩させるという技もあります。私もこの技を使ったことがありますが、赤ちゃんの鎖骨が折れて整形外科のお世話になってしまいました。さいわいにも特別な処置は必要ありませんでした。それ以外は『ドクターX』ではありませんが、私、失敗したことはありません。

 また、お尻からピタッと下がってくれればよいのですが、中には足が先進して足の間から臍帯がヌルリと出てきて赤ちゃんの命にかかわることもあります。しかし、お尻から下がってくるかどうかは内診と超音波で予測可能で、危なければ昔から帝王切開が選択されていました。ようするに見極めが大切でした。

 こう書くと、「どうして今は下から産ませないんだ?」と思われるでしょう。逆子の場合はいつ危険な状態になるのか予測が難しいので、陣痛が始まったら逆子の対応を熟知した産科医が張り付いた体制をとる必要があります。平成15年までの当院はOKでしたが、最近は中堅の産科医でも逆子の分娩を見たことがないというのが現状です。当直を依頼しても逆子の妊婦さんが入院すれば我々ロートルが駆けつけなければなりません。学会などで遠方にいることもあるので、いっそのこと逆子はすべて帝王切開するということにしました。ちょっと残念ですが・・・。

 妊婦健診で逆子と分かったらどうするか? 昔は赤ちゃんがひっくり返りやすいようにヨガで言うところのネコのポーズを取ってもらったり、赤ちゃんの背中を上にして横になるように指導しましたが、最近は無意味らしいことが分かりました。

 お腹の中の赤ちゃんのお尻を持ち上げてから赤ちゃんの頭を下へ回すという方法もあり、我々もさかんにやっていた時期がありましたが、乱暴に行うと胎盤がはがれたり臍の緒が絡まったりして赤ちゃんが危険な状態になることもマレにあるため、これも禁じ手に近いあつかいとなりました。

 ここで登場するのが逆子のハリ治療です。使うツボは内踝の上方にある三陰交と足の第5指の爪の外側下方にある至陰です。鍼灸治療院ではハリとお灸を併用して行っていますが、私は簡便法でパイオネックスと言って長さ0.6mm太さ0.15mmのトゲのようなハリの附いたシールを4時間貼っています。これでどうして赤ちゃんが動くのかは謎ですが、放っておくよりも治る確率が高いのは統計的に証明されています。お腹の赤ちゃんはお母さんの感じる自律神経の変化を察知します。食いしん坊のお母さんが美味しい物を食べて喜んでいるときは赤ちゃんも嬉しいのかさかんに動きます。「ハリ治療をする」と言っても信じないお母さんに対する理論武装として、形井秀一先生の『逆子の鍼灸治療』(医歯薬出版)を外来に置いています。形井先生は逆子の鍼灸治療の第一人者です。