院長ブログ カーブ

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第392回 忙酔敬語 老後の心配

 結論を言うと私は老後の心配はしていません。してもどうしようもないからです。

 「お医者さんだからそんなことが言えるんだ」

 たしかに開業医は定年がなく体調さえ良ければいつまでも働けます。ただし病気になったらアウトです。

 学生時代の同期で産婦人科を開業していた男が末期癌でたおれて閉院しました。定期的に健康診断を受けるなんてことはそいつの性分には合わないことでした。それはそれでアッパレだと思いました。しかし、それから先が大変でした。世間はそんなに簡単に死なせてくれません。腸のバイパスの手術を受けたり抗がん剤を投与されたりで、その後、2年くらい生かされてしまいました。

 私は10年以上前に大腸検査を受けました。そのとき「良性だと思いますがポリープがあります。取りましょうか?」と聞かれ、即座に「お願いします」と答えましたが、横にいた看護師さんが「先生、入院してもらうことになっています」と言うので、以来そのまんま。医療界の異端児、近藤誠先生著『健康診断は受けてはいけない』(文春新書)の「ポリープの発見・切除は無意味」で理論武装していますが誰も相手にしてくれません。本当のことを言うと病院で体をいじくられるのがイヤで、死ぬのなら癌でゆっくりと自分の最期を見つめながら死んでみたいと思っているので、そっとしておいてほしいのです。   癌にもならずに老いさらばえて働けなくなったらどうするか? 年金もあてになりません。以前、BSプレミアムの『世界ふれあい街歩き』でウランバートルのビル街のかたすみのベンチに座って行きかう人々の体重測定をして糧にしている80歳くらいの老夫婦が登場しました。36年前までは遊牧民として働いていましたが体力がおとろえて街で暮らすようになったとのこと。「何とかなっているよ。悪いことをするよりはマシさ」と夫婦そろってニコニコしていました。とにかく夫婦円満。こんな生活もアリだ、と思いました。

 夫婦仲が悪くなったらどうするか? トルストイは16歳も年下のソフィアと結婚しました。結婚当時は単語を1つ書くだけで思いが伝わるほどの仲良しさんでしたが、晩年は理想を追い求めるあまり現実主義の妻と価値観の相違で不仲となり、82歳のトルストイは家出してのたれ死にしました。このような妥協のない人生もアリだ、と思います。

 ちょっと羨ましいのが良寛さんです。40歳も年下の貞心尼に慕われ看取られながら亡くなりました。御年80歳の山本先生に「こんな風に死んでみたい」と言ったら「そんなうまい話なんてないよ」と笑われました。

 認知症になったらどうするか? パーキンソン病になったお医者さんがいました。宴会での近況報告で言いました。「最近、病気が進んでお化けを見るようになりました。小さな子供達がテレビの下で遊んでいるのが見えるんです」

 これはレビー小体型認知症の典型例です。ふつうの人だったら「変なのが出た!」と大騒ぎするところですが、老先生は飄々としていました。格好いい!と思いました。

 では孤独死は? 世間ではいろいろ騒がれていますが、実はこれも悪くないと思っています。1人静かに逝ってしまうのは自然のなりゆきです。自然界では皆そうです。

 べつに早死にしたいとは思っていませんが、最近は「死」はお友達という気がしてきました。でも1回しか会えない大事なお友達です。今を大切に生きていこうと思っています。