院長ブログ カーブ

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第389回 忙酔敬語 四貫二千振

 東京のホテルに宿泊したときの朝、入り口のドアに産経新聞が入っていました。産経新聞は全国紙ですが北海道ではあまり馴染みではありません。新聞は掲載されている広告がおもしろい。鵜の目鷹の目で広告欄に目をやりました。そこで目に止まったのが紙面の下3分の1を占めたジャパンライブラリーの<出来る男の頼れる”相棒”>。

 〈かつての剣豪・大治郎は、道場入門者に対して四貫の鍛錬振棒を与え、二千回振れるようになって初めて稽古を許したという。この鍛錬振棒を現代にアレンジしたのが、この《四貫二千振棒》。《四貫二千振棒》は日本古来の伝統の鍛錬鉄刀。伝説の剣豪・大治郎が使用した鍛錬具を現代にアレンジして復刻。約3㎏の重量(全長約85㎝)、反りがない形状で素振りを繰り返すことで手首や腕はもちろん、上半身全体を鍛えるのに効果的。しっかり握れる滑り止め加工グリップで、シニアの方でも安心。〉※ちなみに「最後の剣客」榊原健吉は長さ六尺(180㎝)、重さ三貫(11㎏)の振棒を二千回振ったそうです。

 私は3年前から札幌白石産科婦人科病院の武田智幸先生の師事のもと、長さ114㎝、重さ1㎏の樫の棒を毎朝120回素振りしています。教えを請うのは月に2,3回、最近では数か月に1回のペースですが、居合道3段の武田先生は妥協せず、そのつど木刀の構えや足の位置、腰の落とし方などいろいろ注意してくれました。そして、今年の春にやっと「良いんじゃないでしょうか」と言ってくれました。

 始めた当初は前腕がパンパンに張って歯みがきもままならないほどでしたが、最近ではもの足りなくなりました。また、刀を振るという行為は、本来、目の前にいる敵をぶった斬るということです。武田先生をはじめ、居合いをしている先生は模擬刀を所持しています。ときには真剣を用いて巻藁を斜め切りにして腕を試します。

 私も真剣が欲しくてどうしようもありませんでした。拵えなどどうでもよくあくまでも実戦用。えい!とばかり振ってみたい。昔、父が戦争中の思い出話をしました。

「あの何とかダヌキという刀はよく切れたぞ。短いけど厚くて鉈代わりに木を切るとスパスパ切れたもんだ」

「それって同田貫(ドウダヌキ、胴田貫、胴太貫とも書く)だろう?」

「そうだ、そうだった、よく知ってるな」

 ちょうどその頃、コミック『子連れ狼』が大人気で、映画やテレビドラマ化されたりしていました。主人公、拝一刀の愛刀が胴太貫でした。津本陽さんも短編『明治兜割り』で、先ほど紹介した榊原健吉が胴田貫で明珍の兜をたたき割った史実を書いていました。

 3年も棒振りをしていると私のなかのダークサイドの部分が消滅していきました。「日本刀なんか持っててもしようがない」と悟りました。それでももっとドッシリとした鉄製の振棒があったらなあ、と憧れていたらこの広告です。さっそく注文しました。  10日後に振棒が届きました。梱包を見た印象は「短いな」。でも取り出してみるとさすが全部鉄製、ズッシリきました。振ってみるとさらにズッシリ。腕を痛めそうでヤバイ物を買ってしまったと後悔しました。何回かに分けて計10回ほど振って止めました。その手で今まで使っていた樫の木刀を持つとまるで杉の木のような軽さでした。翌日から、本格的に鉄製の振棒での稽古開始。連続12回振ったところで身の危険を感じて木刀に持ち替えました。それ以降、鉄棒振りは3日に1回としました。今さら健吉にはなれません。