院長ブログ カーブ

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第384回 忙酔敬語 ヘビの心臓

 知り合いのペットのヘビが脱皮しました。ヘビは硬い皮膚を脱皮することで成長します。これがヘビにとって一苦労です。一日以上かけてゆっくり脱皮します。けっこう負担になるようです。なかには脱皮しきれずに命を落とす輩もいるとのこと。一気にエイッとばかり脱皮することはできません。心臓に問題があるからです。

 われわれ哺乳類や鳥類の心臓は2心房2心室で、血液が肺に行って動脈血となり、それが全身に回る機能が完成されています。ですから活発に行動することができます。それに対してヘビの心臓は心室の構造が不完全で動脈血と静脈血が混じりあうため素早い行動を長時間にわたって行うことはできません。人間でいえば慢性心不全の状態です。

 それでは下等な心臓かと言えばそうとも言い切れません。ふだんは完全な心臓を必要としないため、それ以上の進化はしなかっただけです。爬虫類のなかでもワニはほぼ2心房2心室ですがべつにワニが偉いわけではなく、素早く動く必要にせまられた結果、たまたま完成形の心臓を持った個体が生き残ったからにすぎません。

 生物は生きていくのに必要な形態を持っているだけで余計な部分は形成しません。鳥も飛ぶ必要がなければペンギンのように羽は退化します。人類もアフリカにいるときは紫外線から体を守るのに都合の良い黒い肌をしていましたが、ヨーロッパ方面に進出した面々は2000世代かかって必要のないメラニン色素は作らなくなり白い肌となりました。

 ヘビは変温動物でふだんはジッとしていることが多く、食事は頻繁にとる必要はありません。2,3日から数週間に1回の狩りをすれば充分に生きていけるので慢性心不全でも大丈夫。完全な心臓を形成するためのエネルギーは無駄です。エコの動物とも言えます。

 進化は環境に適応した個体が生き残り、うまくいかなければ滅びます。これを自然選択といいます。進化の考え方は人間の生き方のヒントにもなります。

 環境に馴染めない人は健康を害します。適応障害やうつ病などの精神疾患、腰痛、慢性疲労症候群、月経不順などの心身症、それにメタボなどほとんどの疾患の原因がその人が置かれた環境と大きくかかわっています。

 心身症の基本的な治療法として認知行動療法などの心理療法があります。最近、向精神薬に頼らない生活をすること、あるいは公認心理師が国家試験制度によって確固たる資格を認められたことなどから、心理師の活躍が期待されるようになりました。

 私は認知行動療法について疑問をいだいています。認知行動療法をごく簡単に説明すると、個人の考え方のくせを知り、現実に即した幅広い考え方ができきるようになることで、気分や身体の反応、行動が変わることを目的とした治療法です。  確かにすばらしい治療法ではありますが、この治療法では、その患者さんの取りまく環境に問題がないことが前提となります。いくら心理療法をしても職場がパワハラ・セクハラに満ちあふれていたら話になりません。あるいはその仕事が本人にとって魅力のないのなら、むりくり考え方を変えても幸せはつかめません。