院長ブログ カーブ

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第376回 忙酔敬語 進歩と進化

 イチロー選手が45歳で引退しました。世間はアッパレアッパレ的雰囲気で二度辞退した国民栄誉賞もいずれ押しつけられることでしょう。でも、本人が言うように自分に合った人生を見つけただけで、それほど無理して努力したとは思っていない様子です。褒めなければいけないのは、自分の不本意な仕事をなしとげた人でしょう。

 イチロー選手が活躍しはじめたころ、「進化するイチロー」と新聞に書き立てられました。私はこれに強い異和感を覚えました。

 「進化ではなく進歩だろうが・・・」

 しかし、進歩ではもの足りないのか、とうとうイチロー選手以外にも「進化」するアスリートが現れ、現在はふつうに使われるようになってしまいました。言語は時代によって変化します。ここまで来ては今さら文句を言ってもうるさいジジイと思われるのは重々承知ですが一言二言言わせてください。

 「進歩」とはレベルアップすることです。ただこれだけ。それに対して「進化」は生物学の用語で、ご存じダーウィンの『進化論』で使われたキーワードです。

 進化とは生物が環境に合わせて姿を変えて適応することを指しています。私が高校生のころ、いったん姿を変えるように設計されたら、とめどもなく変化して、はては滅びの方向へ行ってしまうことがあると習いました。マンモスがその例で、無駄に牙が増大して食物をとるのに支障をきたすようになったと生物の教科書に書いてありました。牙が食事にさしつかえるのなら、体全体が巨大化する前にとうに亡んだはずです。寒い地域に適応するようにマンモスは毛むくじゃらでした。私は毛むくじゃらの遺伝子は牙の発達する遺伝子の側にあったため、牙もついでに発達したのではないかと考えました。いずれにしても進化は必ずしもレベルアップするワケではありません。

 現在では、マンモスは、気候が湿潤になったため、それまで平原に茂っていた栄養豊かなイネ科の植物が雪に被われた結果、餌不足となり絶滅したという説が有力です。

 生物は環境に合えば、つねに省エネの方向に進化します。鳥も飛ぶ必要がなければ省エネのため翼は退化します。ダチョウ、ペンギン、キウイなどがそうです。この退化も進化の一端で、退化は進化の反対用語ではありません。

 アフリカで誕生した現世人類(ホモサピエンス)はもともとは紫外線を防ぐために色黒でしたが、メラニン色素を作るにもエネルギーが必要です。ヨーロッパ方面に進出した人類にメラニンはいらないので2000世代(3,4万年)かけて白人となりました。ヨーロッパ方面の人類が色白になった理由としてネアンデルタール人との混血も関係しているようです。ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人は金髪で碧眼でした。

 ネアンデルタール人が絶滅した理由として、想像力が欠如していたため大きな集団を形成できなかったと言われていますが、本当にそうでしょうか? 現にブラジルのアマゾンの奥深くに住んでいるピダハン族の人々は目の前に見える物しか信じることはなく、当然、神という概念もありません。そこで布教した伝道師は30年間も頑張ったすえ、とうとう自分自身も無神論者になったそうです。ご苦労なことでした。  あれこれ話が迷走しましたが、とにかく進歩と進化は大違いです。くり返しますが進歩はレベルの問題。進化は環境に適応するための壮大な物語です。