佐野理事長ブログ カーブ

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第91回 忙酔敬語 母乳と市販薬

「もし、かぜで病院にかかるときは、お医者さんに母乳をやっているけど大丈夫ですかなんて訊いてはダメですよ」。里帰りで当院でお産をされたお母さんに、退院診察や1か月検診のときに私が言うことばです。「えっ、本当に大丈夫なんですか?」。お母さんたちは不思議そうな顔をします。ほとんどの薬は母乳からも排泄されるので、他科の先生たちは母乳栄養をしていると腰を引いてしまいます。薬剤師の先生も同じです。たまに薬局から確認の電話がかかってくることもあります。
妊娠中はさほど気にもしないで、かぜ薬などを飲んでいたのに、産後は神経質になるお母さんが多いようです。「生まれた赤ちゃんの顔を見たら、いろんなことが心配になるんでしょ?」と訊くと、みなさん、深くうなづきます。やはり母性が強くなり、何が何でも赤ちゃんを守りたいという気持ちが芽生えるのですね。いじらしいです。
母乳から赤ちゃんに移行する薬の量は妊娠中の10分の1といわれています。ですから妊娠中に飲んでいた薬を産後に止める必要はありません。当院は心療内科もやっているので、パニック障害で他院から紹介される妊婦さんも少なからずいます。薬物療法でほとんどの妊婦さんは良くなりますが、悲しいのは、そこの小児科の先生の方針で母乳育児を禁止されることです。
平成15年4月の日産婦医会報のコラム『妊娠中のパニック障害の診断と治療』で、九州大学の周産期精神医学がご専門の吉田敬子先生は、「薬物療法を受けていても母乳栄養を禁止する必要性はない」と明言されていました。活字にされたものは説得力があるので、その記事をコピーして、今でも患者さんに説明するときに使っています。しかし、その数か月後に同じ九大の産科の先生が、日本医師会誌に「向精神薬を服用している褥婦さんの母乳栄養は禁止している」という論文を書いていたので、「九大の先生たち、ケンカしてるんじゃないだろうか?」と心配になりました。
ここで、また「本当に大丈夫なんだろうか」と不安になりましたよね。わかります。母乳栄養と薬について、日本の厚労省は相変わらずはっきりしたことは言っていませんが、アメリカの小児科学会で挙げた母乳禁止の必要のある薬は、ほとんどが抗がん剤です。私が以前勤務していた北見赤十字病院の小児科の先生は、母乳栄養推進派で、母親教室のときには必ず「抗がん剤以外の薬は心配ありません」と説明していました。
「でも市販薬はダメですよね」。市販薬はアブナイと心配されているんですね。基本的に市販薬は医師の管理が必要ない薬です。そこで「病院で処方される薬の方が効果が強い分、副作用もあり得るのでコワイんですよ」と説明します。ただし、ネットで販売されている得体の知れない薬はアブナイかもしれません。薬剤師さんがいる薬局なら心配ありません。最近、大手コンビニでも一部の薬剤の販売を許可されるようになりましたが、これも大丈夫でしょう。
これからかぜのはやる時期です。今、述べたように市販薬でも大丈夫ですが、長引くようなら遠慮なくいらしてください。