9月1日(日)、福岡で日本産婦人科漢方研究会、9月7日(土)から8日(日)にかけて新篠津村タップの湯で北海道東洋医学シンポジウムが開催され、今年は運良く両方とも参加できました。「運良く」といったのはこの3年、両方の勉強会の日程が重なったため、北海道東洋医学シンポジウムの方は参加できなかったからです。日本産婦人科漢方研究会では産婦人科医が集まるので産婦人科の疾患に関しての漢方薬の使い方が勉強できます。東洋医学シンポジウムの方は私の師である下田 憲先生と岩崎 勲先生が参加されるので、私自身の東洋医学に関しての理解が深まります。
両方に参加して感じるのは、産婦人科漢方研究会で発表される演題のほとんどが、テーマが漢方なのに、西洋医学的な考えに基づいているということです。これに対して東洋医学シンポジウムでは、西洋医学的な考えを無視しているわけではありませんが、基本は東洋医学的な観点からの議論がほとんどです。
更年期障害は産婦人科漢方研究会でも最も多い話題です。いろいろな漢方やホルモン治療との比較が論じられますが、基本的な発想は西洋医学的な疫学的(統計学的)方法です。
たとえば加味逍遥散と女神散が比較されました。女神散は加味逍遥散より有名ではありませんが、更年期障害の患者さんに2,3ヵ月ばかり使ってみると有効率は60%で加味逍遥散に比較して遜色はなかった。だから女神散も更年期障害に有効だと結論づけるのです。これって変です。いわゆる更年期障害で2,3ヵ月も通院すればよほどおかしな治療をしなければ60%くらいの患者さんは少しは改善します。統計でいかにも女神散が効いたように見せましたが、他の治療法も検討しなければ意味がありません。
とくに呆れたのは、何年か前の、ホルモン補充療法と加味逍遥散を比較した特別講演でした。更年期障害の患者さん数百人にこのどちらかの治療をほどこして、数か月にわたって、ほてり、冷え、肩こりなどの症状を事細かに統計的な処理を行って解析したのです。この研究の前提には、更年期障害にはホルモン補充療法も加味逍遥散も効くという発想があるようです。しかし、実際に更年期障害と診断された患者さんの中には、両方とも効かない患者さんも大勢います。そうした患者さんを無視した研究でした。講演が終わったとき、その辺のところを質問しようとしましたが、座長の先生は「素晴らしい研究です! 今後も症例数を増やしてまた発表してください!」と大声でしめくくってしまいました。「ヤレヤレ、さらに犠牲者が増えそうだな」と空しい気持ちになりました。
東洋医学では、個人個人の患者さんの状態を鑑別していくので、特定の処方が特定の病気に効くという発想はありません。その点がアートな感じで、因果関係を統計的に判断するのは困難となり、西洋医学を中心としている医師に受け入れられない原因となっています。また、五臓六腑など自然哲学を持ち出しているのも敬遠される要因です。
韓流時代劇、『チャングムの誓い』や『ホジュン』で、疫病の原因を解明して治療する場面がありますが、あれは西洋医学(疫学)的な発想に基づいた治療法です。見ていて話が盛り上がったので、「東洋医学ってすごいなあ」と思ったら大間違いです。西洋医学的な考え方も大切なのです。ちなみに『チャングムの誓い』に出てくる王様の病気、あれはおそらくベーチェット病でしょう。現代医学でも難しい病気でチャングムも治せませんでしたが、それこそ現在の東洋医学の名医なら治せるかもしれません。
第89回 忙酔敬語 西洋医学の考え方、東洋医学の考え方