低容量ピルの副作用の一つに不正出血があります。飲み始めによくあることですが、1年以上、何事もなく過ぎていて、「ピルはきちんと定期的に飲んでいるのに2,3日前から出血が続いている」と言って受診される方もたまにはいます。こうした場合、ホルモン剤を追加する方法が一般的です。しかし、私は腸の調子が悪く薬を十分に吸収できないからだと考えているので、整腸剤を処方することにしています。ホルモン剤は効き目は確かですが、ニキビや吐き気などといった副作用もあるからです。
7,8年も前でしょうか。札幌市産婦人科医会の勉強会で、東京でビル開業をしている先生を招待して講演していただいたことがありました。その先生は日本で最も多く低用量ピル処方されているそうで、ピルに関しての経験が豊富でした。東京あたりになると専門別がきめ細かくなるのですね。そこで印象に残ったのは、「抗生物質を飲んでいる場合、腸内細菌のバランスが崩れて薬が十分に吸収できないため、避妊に失敗することがあるので気をつけなければいけません」という言葉でした。そのような状況では「不正出血も起こりうるな」と後になって思いいたりました。
そこでピル服用中に不正出血を生じた患者さんに乳酸菌の整腸剤を処方したところ、ほとんどの患者さんの出血は止まりました。そのことを、2年前に新しく発売された定量ピルの製薬会社の学術担当の人に話したところ、半年後あたりに製薬会社の営業マンが来て、「先生の提案された方法、多くの先生方に喜ばれていますよ」と言ってくれました。「本当かなあ、たんなるリップサービスじゃないのかねえ」と内心思いましたが、悪い気はしませんでした。乳酸菌の整腸剤は、値段も安く、副作用も全くといってもいいほどないので飲みやすい薬です。薬局で販売されているビオフェルミンでもかまいません。出血が止まるまで飲んで、後は食生活に注意すればよいのです。
この暑さで冷たい物ばかり飲んでいるため、ピルをきちんと飲んでいるのにもかかわらず不正出血する若い女性が受診しました。例によって「冷たい物を飲み過ぎると腸の調子がくるってピルを吸収できなくなる、だから出血するんです。ボクなんかビールも室温で飲んでいる、ビールの本当の味が分かってけっこう美味しいよ」と生活指導をしたところ、「ぬるいビールを飲むなんて先生は変態です」と言われました。
ウーム、30年以上も医者をやっていて、患者さんに「変態」と言われたのは初めてだなあ。いくら言い聞かせても聞き入れてくれそうもないので、それ以上の議論は中止して乳酸菌の整腸剤を処方しました。
「そうか、オレは変態かぁ‥‥」と何だかおかしくなって笑ってしまいました。
第80回 忙酔敬語 低用量ピルと不正出血